【背景】

原子力機構では,1976年より国の方針に沿って,高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発を実施してきており,現在,地層処分技術の信頼性向上や安全評価手法の高度化等に向けた基盤的な研究開発を実施している。

LBNLでは,米国のユッカマウンテン計画において,事業主体であるエネルギー省の下で,長期にわたる安全性の評価など計画の科学技術的な基盤を支えてきた米国の国立研究所の中でも中心的な役割を担っている。

放射性廃棄物の地層処分では,廃棄物に数万年以上の半減期を有する放射性核種が存在することから,その長期的な安全性を示すうえで非常に長期の時間スケールが対象となる。このため地下深く処分しても,いずれは廃棄物から放射性核種が地下水に溶け出し,その後,地下水の動きに沿って岩盤中を移動しながら,最終的に人間の生活圏である地表に到達し影響を与えることが想定される。

地表は,一般に長期間安定である地下深部に比べ,構成要素(河川等の水系,土壌,大気など)や放射性核種の移行プロセスが多種多様となり,核種の移行による影響の評価が非常に複雑になるという特徴を有している。このため地表の影響評価にあたっては,わが国のみならず諸外国においても,対象となる核種の移行プロセスを大まかに捉えて抽象的に表現したモデルがこれまで用いられてきた。

【研究内容】

近年,計算機技術やモデル評価手法の一層の進展に伴い,先端的評価技術や最新の知見を取り入れることにより,上記の特徴を十分に考慮に入れ,移行プロセスをより精緻かつリアルに評価することが可能となってきた。

このため,本件では,下記に示す個別タスク項目について,分子動力学シミュレーション※2など双方がそれぞれ有する先端的評価技術や最新の知見を相互に取り入れ,対象となる核種の移行プロセスそのものを忠実に表現した,より精緻な予測評価モデルの開発や,モニタリングデータに基づくモデルの妥当性検討に向けたデータ処理方法など,モデル評価技術の最先端化と信頼性の一層の向上に主眼を置いている。

なおLBNLでは,地層処分システムの研究のみならず,環境影響評価やモニタリング,環境動態モデルにおいて先導的な研究を行ってきており,こうした分野での協力を強化することも狙っている。

今回の研究協力の強化・拡張により,若手研究者や学生が積極的に参加できる枠組みを用意し,共同研究を通じて,次世代を担う国際的視野に富む研究者を育成することにも大きく貢献することを目指している。

【今後の予定】

年に1回ずつ,双方において会合を開催し,成果のレビュー,進捗度の確認を行い,必要に応じて計画の修正を行う。

件名:「地層処分に関わる生活圏(地表環境)の影響評価手法と環境安全科学」(Environmental Assessment Methods and Sciences)

期間:平成26年度〜平成29年度(予定)

個別タスク項目:

・タスク1 (P1):地層処分の生活圏評価手法とモデル開発
   - ミクロなレベルから分水界※3で区分される領域のスケールまでの放射性核種のプロセスモデルを統合したマルチスケールモデルの開発
   - ウランおよびその子孫核種※4の移行を対象とした分水界モデルの開発
   - 感度解析を含むサイトを特定しない生活圏の安全評価モデルの開発

対象となる地表環境の移行プロセスの事例

・タスク2 (P2):地表環境の複合データの統合,解析,解釈,視覚化の手法開発
   - 複合データセットによる汚染の特性化と移行特性の抑制
   - 地質環境の複合データに関する共有と視覚化を目的としたデータ管理の枠組みの構築

データ統合の事例

・タスク3 (P3):土壌中の放射性核種の収着プロセス等の特性把握を目的としたモデル開発と試験
   - 粘土鉱物へのセシウムの収着の分子動力学シミュレーションモデルの開発
   - 不可逆吸着プロセス※5の影響に関する試験
   - 土壌中の凝集と分解のプロセスに関する評価手法の検討

土壌の粘土鉱物へのセシウムの吸着例


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