平成25年11月25日
(独)科学技術振興機構(JST)
日本電子株式会社
国立大学法人東北大学
株式会社島津製作所
(独)日本原子力研究開発機構

Liの分析も可能な電子顕微鏡用高エネルギー分解能軟X線分光器の開発に成功

【ポイント】

【要旨】

独立行政法人科学技術振興機構の産学共同シーズイノベーション化事業(育成ステージ)により、日本電子(株)、東北大学、(株)島津製作所および独立行政法人日本原子力研究開発機構は、分光素子として電子顕微鏡用に最適な不等間隔溝回折格子を開発し、Liの分析も可能な高分解能軟X線分光器の開発に成功しました。

【背景と経緯】

東北大学寺内正己教授らは、平成16〜18年度の期間で文部科学省経済活性化のための研究開発プロジェクト(リーディングプロジェクト)によって汎用透過電子顕微鏡(TEM)に搭載できる高いエネルギー分解能を持った軟X線分光器を開発し、金属AlのAl-Lスペクトル観察において0.2eVの高いエネルギー分解能での観測に成功しました。この成果を受けて平成20〜23年度の期間においてJSTの産学共同シーズイノベーション化事業(育成ステージ)により、エネルギー範囲がより低い領域およびより高い領域においても分光可能で、また、TEMのみならず電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)や走査電子顕微鏡(SEM)にも搭載可能な、高エネルギー分解能軟X線分光器用の分光素子として、収差も補正した不等間隔溝回折格子を開発しました。さらにこの開発した回折格子を分光素子とした、商用の高エネルギー分解能軟X線分光器を搭載したEPMAおよびSEMを用いて、この分光器の利用範囲の拡大、特に工業的利用を目的としたアプリケーション開発を進めています。

開発した分光器は分光素子として不等間隔溝回折格子を採用しているため検出系に可動部分がなくなり、この素子のカバーする全分光領域のスペクトルを一度に計測できるばかりでなく、選定した走査領域の各点のスペクトルをスペクトルマップとして収集できるという大きな特長を持っています(図1)。この分光器のエネルギー分解能は、EPMAに用いられている通常の波長分散型分光器(WDS)よりも1桁以上良好で、商用機としてもAl金属のAl-Lスペクトルにおいてフェルミ端で0.3eVを保証しています(図2)。また、この分光器は50eVからの分光が可能で、通常使用されているWDSおよびエネルギー分散型分光器(EDS)では不可能であるLi-K発光(54eV)の計測が可能です(図3)。この特長を利用すれば、Liイオン電池負極のLiの充・放電に伴う挙動などを追跡することも可能で、Liイオン電池の開発・評価などに資する事が期待されます(図4)。高いエネルギー分解能を持つため、この分光器で取得した特性X線のスペクトルは元素の化学結合状態を反映した形状を示します(図5)。このスペクトル形状の違いを利用すれば、化学結合状態の異なる同一元素の分布をマップとして表示すること、化学状態マッピングができます(図6)。さらに、この分光器P/B比はWDSおよびEDSよりも良いので、鉄鋼中の数10ppmの微量のホウ素や窒素などの検出、定量も可能となっています。

これまで、Li-K、Be-K、B-K、C-K、N-K、O-K、F-K、Mg-L、Al-L、Si-LおよびP-L発光スペクトルについて、かなりの観察例を収集してきました。今後、種々の金属、無機および高分子材料、電子材料、電子デバイス、電池などの分野での応用が進展し、これまでのEDSあるいはWDSでは得られなかったような有用な知見に基づく物質、材料の特性に関する基礎的理解に資するばかりでなく、特に化学結合状態がEPMA利用のルーチンで分析できる特性が実用的な材料の開発、評価、検査などへの応用に利用されることが期待されます。

なお、本開発の成果である軟X線分光器については、日本電子が製品化し、「国際二次電池展」(平成26年2月26日〜28日、東京ビッグサイト)に出展する予定です。不等間隔溝回折格子については、島津製作所が供給します。

     は【用語解説】参照


図1 複数の特性X線スペクトルを同時測定可能


図2 アルミニウムのフェルミ端部を明瞭に観察
エネルギー分解能0.3eVを実現


図3 Li-K発光スペクトル(54eV)をダイレクト観察


図4 充電量の差を識別可能


図5 Si化合物ごとのスペクトルの違いを明瞭に観察


図6 1eVの違いを可視化し、化学状態マップが得られた。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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