平成25年6月18日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
独立行政法人物質・材料研究機構
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 松浦祥次郎)先端基礎研究センターの圓谷志郎任期付研究員、独立行政法人物質・材料研究機構(理事長 潮田資勝)極限計測ユニットの山内泰グループリーダーらは、スピン偏極1)準安定ヘリウムビーム2)を用いることで、素子構造において磁性金属と接合したグラフェン3)のみの電子スピン状態を検出することに成功しました。
グラフェンは、電子スピン情報の伝達に適した性質を多数有することから、次世代スピントロニクス4)の基盤材料として有望視されています。グラフェンをスピン素子に用いるためには、スピンの状態を制御する技術が不可欠で、中でも、磁性電極を用いたスピン注入技術の開発は重要な課題です。同技術を開発するためにはまず、電極となる磁性金属と接するグラフェンのスピン状態を知る必要がありますが、従来の観測手法5)では、原子一層にすぎないグラフェンからの計測信号が磁性金属からの強い計測信号に埋もれてしまい、グラフェンのみの電子スピン状態を調べることが困難でした。
今回、当研究チームは、スピン偏極準安定ヘリウムビームを照射する計測手法を用いてグラフェンと磁性金属(ニッケル)の接合体を観測することで、グラフェンのみの電子スピン状態を観測することに初めて成功しました。その結果、ニッケルと接するグラフェンの伝導電子には、ニッケルのスピンと同じ向きにスピン偏極が生じることを明らかにしました。
本研究成果は、グラフェンをはじめ新たなスピントロニクス材料として注目されている二次元物質6)のスピン物性研究やスピン注入技術の開発などの素子応用を大きく進展させるものと期待されます。
本研究成果は、科学雑誌「CARBON」にオンライン掲載されました。
以上