用語解説

1)イオン化レベル
原子内の電子が、放射線のエネルギーを吸収して原子の束縛を振り切って離脱する現象を「イオン化」といい、「イオン化レベル」とはこの現象が生じる最低限のエネルギーのこと。
2)K殻吸収端
原子核の周りを回る電子の軌道は、原子核に近い方からK殻、L殻、M殻・・・と呼ばれ、K殻とL殻しかない窒素や酸素の場合、内殻であるK殻の電子が原子の束縛を振り切って離脱するイオン化レベルのエネルギーを「K殻吸収端」と呼ぶ。
3)不対電子
イオン化などにより最外殻を構成する一対の電子のうち一つが失われた後に軌道に残された電子。エネルギー的に不安定であるため非常に反応性に富む。不対電子を有する分子種をフリーラジカル(遊離基)と呼ぶ。活性酸素種の代表であるOHラジカルは、酸素原子上に不対電子を有するため、非常に生体分子との反応性が高い。
4)電子常磁性共鳴(Electron Paramagnetic Resonance、EPR)装置
不対電子のみを特異的に検出するための装置で、電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance、ESR)装置とも呼ばれる。不対電子に対して外部から磁場をかけると、電子スピンと呼ばれる自由度が異なる二つのエネルギーを持つようになる。この時のエネルギー差に相当するマイクロ波が照射されると、不対電子はそれを共鳴的に吸収する(電子常磁性共鳴)ため、これを利用して不対電子の検出を行うことができる。一般の電子常磁性共鳴装置では、磁場を変化させながら、特定波長のマイクロ波に対する試料の吸収スペクトルの観測を行う。
5)衝突後相互作用(PCI:Post Collision Interaction)
原子や分子の内殻電子のイオン化レベル値近傍では、放出された電子が原子から離脱しようとする途中でオージェ効果がおこるために、生じた二価イオンから強い引力を受けた電子が減速され、著しい場合には原子に再捕獲されることがある。このようなオージェ効果による電子の減速現象をPCIと呼ぶ。オージェ効果とは、放射線照射により原子や分子の内殻電子が放出されて内殻ホールのある一価のイオンを生じると、一個の外殻電子がホールを埋めるとともに他の外殻電子に余剰エネルギーを与えて放出させ二価のイオンに変化する現象のことで、発見者のフランスの物理学者P. Augerにちなんでオージェ効果と呼ぶ。
6)解離性電子付着現象
低エネルギー電子(10 eV以下)が分子に衝突すると、一時的に電子が反結合性の軌道に取り込まれ、分子が負の電荷をもつイオン(アニオン)になった後に解離することがある。解離性電子付着と呼ばれ、DNA分子に付着すると鎖切断が生じる場合があることが知られている。

K殻電子脱離によるイオン化及びPCI(窒素の場合)


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