【委託研究の背景】

高温ガス炉は、優れた安全性、小型でも高い経済性等の特長と有するとともに、900℃を超える高温の熱を利用した二酸化炭素を排出しない水素の製造等によって温室効果ガス排出量低減に貢献することができる原子炉です。原子力機構が所有する高温工学試験研究炉(HTTR)は、原子炉出口温度950℃を達成できる世界で唯一の高温ガス炉であり、高温ガス炉の技術について、我が国は世界のトップランナーとして注目されています。

一方、米国では、エネルギー政策法(Energy Policy Act of 2005)に基づき、米国エネルギー省(DOE)の主導で米国アイダホ国立研究所(INL)が中心となって産業界との協力により、電力と水素を併産する次世代原子力プラント(高温ガス炉)を建設・運転する次世代原子力プラント計画(NGNP計画)を推進しています。NGNP計画は、2021年の運転開始を予定し、現在、概念設計及び研究開発を進めているところです。原子力機構の有する高い高温ガス炉技術に着目したNGNP計画は、HTTRを利用した試験に関する委託研究を原子力機構に要請しました。そして、原子力機構は、HTTRを利用した試験の一つとして、本年3月に終了しました50日間の高温連続運転におけるトリチウム挙動評価に係る委託研究を約6,000万円でINLから米国ゼネラルアトミックス(GA)社経由で受託しました。

【委託研究の内容】

高温ガス炉では、炉心での核分裂反応等により放射性物質であるトリチウムが生成します。高温ガス炉は水素製造等の熱利用分野での利用が期待されていますが、水素の同位体であるトリチウムは、ごくわずかですが熱交換器の金属製の伝熱管を透過するため、1次冷却材から2次冷却材、さらに熱利用施設へ移行し、最終的に製品水素に混入する可能性があります。

本委託研究では、HTTRを利用してトリチウム濃度データを取得し、1次冷却材から2次冷却材への移行、ヘリウム純化設備によるトリチウム除去等の高温ガス炉システム全体のトリチウム挙動を評価し、これらの知見をNGNP計画へ提供する予定です。

【今後の予定】

本委託研究は、トリチウム挙動評価技術、トリチウム透過抑制技術等に関する我が国の技術のNGNP計画への導入に向けた道筋をつける最初の委託研究です。今後、トリチウム挙動評価に加えて、我が国の先端技術に基づく高温ガス炉の実用化に向け、HTTRを利用した試験を通じて、燃料挙動評価、核特性評価、原子炉動特性評価等でNGNP計画との協力を進めます。


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