平成22年6月17日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人東京大学物性研究所
国立大学法人徳島大学

ナノスケールの金属表面形状変化を瞬時に観察
−レーザー加工の初期プロセス解明に期待−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄。以下、「原子力機構」という。)の量子ビーム応用研究部門、東京大学物性研究所先端分光部門、徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部の共同研究チームは、物体表面の1ナノメートル(100万分の1ミリメートル)の凹凸の形状変化を、10ピコ秒(1000億分の1秒)という瞬間で観察する装置を開発しました。

レーザーは光であるため波の性質を持っており、物体から反射されるレーザーの波の形は物体表面の形状によって異なります。その異なる波の相互作用(干渉 1))を利用して物体表面の形状を観察する装置が「レーザー干渉計」で、これまでも軟X線2)の波長の短さを利用した高精度の観察ができないか検討されてきました。しかしながら、軟X線の光に使用できる光学素子(鏡やレンズ等)が限られるために、複雑な光学配置(光学素子の配置)を必要とする従来の方法では観察が困難でした。

このため共同研究チームは、2枚の鏡を用いた「ダブルロイズ鏡」3)と呼ばれる光学素子を用いたシンプルな干渉計の光学配置を考案しました。そして、この光学配置を採用することで世界に先駆けて「表面観察用軟X線レーザー干渉計」を開発し、これまでにない高い精度で物体表面の形状変化観察を、可能にしました。実際に行った観察では、金属表面が赤外線レーザーの照射により融解・膨張していくレーザー加工の初期過程の様子を、1ナノメートルの深さ方向の分解能と10ピコ秒の時間分解能で瞬間撮像することに初めて成功しました。

今回開発した軟X線レーザー干渉計は、レーザー加工の初期過程のより詳細な観察や、薄膜生成過程のその場観察、半導体製造プロセスで重要な極端紫外光4)(EUV)露光用マスクの欠陥検査等の重要な産業応用はもとより、物質の構造相転移の動的挙動などの学術的に興味深い対象の観察に役立つ有望な観測手法であるといえます。また、将来的に軟X線検出器の位置分解能が向上すれば、原子1層分の凹凸の変化の様子の精密観測が可能となります。

なお、本研究成果は、米国光学学会Optics Express誌(電子版のみ)に掲載される予定です (T. Suemoto et al.)。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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