(研究の経緯及び内容)

半導体用シリコンウエーハを処理する薬液・スラリー中にニッケル(Ni)、銅(Cu)が微量でも存在すると、これらの金属イオンがシリコンウエーハ内部に自由に拡散してしまい、研磨工程で凹状の欠陥が発生する原因となり、歩留りが悪くなります。このため、シリコンウエーハに接触する薬液・スラリーの金属イオンの含有量をppbv)レベル以下に下げる必要があります。

例えば、シリコンウエーハの洗浄に用いる高濃度アルカリ水溶液を市販されているイオン交換繊維vi)やイオン交換樹脂 vii)に通液させたとき、イオン交換繊維では多量の溶出成分が検出され、イオン交換樹脂では脱水収縮により充填内に空隙が生じてショートパスが発生し、十分な除去性能を得ることは出来ませんでした。

野村マイクロ・サイエンス株式会社、倉敷繊維加工株式会社、原子力機構は高濃度アルカリ水溶液から、Ni、Cuなどの金属を除去できる材料の合成と評価を共同研究で進め、ポリエチレン繊維を融着して溶出成分が少ない不織布を開発し、放射線グラフト重合法により、図1のように金属吸着機能を導入して、微量金属除去用イオン交換繊維を合成しました。合成工程では、まず、基材であるポリエチレンviii)不織布ix)にγ(ガンマ)線を照射し、反応活性種であるラジカルを形成します。次に、試薬を加えて、基材中のラジカルと反応させることにより、接木のように分子の枝を形成します。その後、除去する金属に応じて、化学処理により金属吸着機能を導入して、イオン交換繊維を合成しました。シリコンウエーハを処理する薬液やスラリー中の金属の吸着特性とイオン交換繊維の耐久性を評価した結果、開発したイオン交換繊維は従来のイオン交換繊維や樹脂に比べて、金属イオンの除去速度で数十倍以上、耐久性も数十倍以上と実用レベルのハードルをクリアできたことから、イオン交換繊維をモジュールに充填し、メトレート®という商品名で販売することになりました。

メトレート®は、強酸・強アルカリ、耐薬品性が高く、溶出成分の極めて少ない特性を持ち、処理したい液を通液するだけで、あらゆるpH領域(pH1〜14)の母液中から選択的に金属を除去できます。これまで1回の使用で廃棄していた様々な工業溶液は、メトレート®での処理により再利用ができるようになります。このため、メトレート®は半導体、FPD工場において、環境負荷低減ならびにコストダウン、品質安定化(歩留り向上)に貢献できるものと期待しています。

図1 放射線グラフト重合法による微量金属除去材料の合成工程


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