研究成果の概要

(背景)

革新的原子力システムを開発するために、マイナーアクチニドや核分裂生成核種の核データを高い信頼性で整備する必要が世界的に認識され、近年世界的に核データ測定研究が進められています。我が国でも、これらの研究を実施するため、北海道大学、東京工業大学、日本原子力研究開発機構、京都大学が文部科学省委託事業「原子力システム研究開発事業」で共同開発していた世界最高性能の中性子核反応測定装置(NNRI)が茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に完成し、本格稼働を始めました。

NNRIは、原子炉で発生する核廃棄物の中で寿命の長い核種を中性子核反応によって短寿命化・安定化する核変換処理研究等に必要な基礎データである中性子捕獲断面積を測定する装置です。同様な装置はスイスの欧州原子核研究機構(CERN)や米国のロスアラモス国立研究所(LANL)にもありますが、NNRIは中性子核反応を起こさせる中性子の強度がこれまで世界最高のLANLの装置に比較しても約7倍強く、世界最高の性能を有しています。

(研究手法)

J-PARC MLFで発生する大強度パルス中性子ビームと全立体角ゲルマニウム(Ge)検出器などの革新的放射線検出器を適用することにより、キュリウム244(Cm-244)等の中性子捕獲断面積を測定します。中性子のエネルギーに応じて変化する中性子捕獲断面積を測定するため、中性子飛行時間測定法という核データ測定手法が適用されました。大強度パルス中性子ビームの活用により、単位重さあたりの放射能が大きな核種の測定が可能となりました。また、特徴ある革新的放射線検出器の適用により、不純物の判別が可能となり、測定データの信頼性を大幅に向上することが可能となりました。

(研究成果)

NNRIを用いて、キュリウム244(Cm-244、半減期18年)やテクネチウム99(Tc-99、半減期21万年)等の測定が行われました。Cm-244については、これまで米国での地下核実験の際に測定された再現性の極めて乏しいデータがあるのみでしたが、今回加速器で発生するパルス中性子を用いた実験としては、世界最初のデータ取得に成功しました。これらの結果は4月末に開催された国際学会で基調講演、招待講演、一般講演として発表されました。

(今後への期待)

J-PARC MLFの中性子強度は更に約8倍に増強される予定であり、その時には、NNRIで用いる中性子強度は他の装置の約50倍となります。NNRIは今後、核変換処理のための原子炉をはじめ種々の新型原子炉の設計に必要な基礎データを測定するために大いに利用される予定です。


J-PARC MLFに完成した中性子核反応測定装置NNRIの全体写真


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