核データは基本的には実験値を基に決定される。しかし、実験値には必ず誤差が含まれ、また、必要な全てのエネルギーや反応について実験データが存在するわけではない。一方、原子力の分野で必要な核データは、ある決まったエネルギー範囲で連続的に一組の値が与えられていなければならない。従って、実験値をそのまま利用できるわけではない。そこで、実験値に加えて原子核物理理論や統計学を用いて、その時点で最も真の値に近いと思われる核データを求める研究を核データ評価といい、その結果を一定の書式でまとめたものが評価済み核データライブライリである。
今回開発したJENDL-4.0は、世界最大の核種数の核反応データを収納し、核分裂生成物(FP)核種およびマイナーアクチノイド(MA)核種の精度向上が図られている。また、放射線(ガンマ線)の遮蔽や放射線と物質の相互作用による発熱量評価計算に必要な二次ガンマ線データ及び核融合などのより高エネルギーの中性子による核反応計算で必要な角度依存中性子スペクトルデータも大幅に充実し、世界最大(表1参照)となった。
ライブラリ | JEFF-3.1.1 | ENDF/B-VII.0 | JENDL-4.0 |
---|---|---|---|
開発国 | 欧州 | 米国 | 日本 |
公開年 | 2009 | 2006 | 2010 |
総核種数 | 381 | 393 | 406 |
γ線データ収納核種*1 | 139 | 206 | 354 |
角度依存中性子スペクトル収納核種*2 | 83 | 170 | 318 |
誤差データ収納核種*3 | 37 | 26 | 95 |
*1 γ線データは遮蔽や核発熱の計算に必要。
*2 角度依存中性子スペクトルは中性子科学研究や核融合炉等の高エネルギー中性子を扱う計算で必要となる。
*3 誤差データは核データの不確かさを表す。この誤差データをもとに、核データの不確かさが設計や安全性に与える影響を計算することができる。
図1に原子炉の燃焼により生成されるマイナーアクチノイド核種の生成量の予測精度の向上例を示す。この図は、使用済み燃料中に含まれるマイナーアクチノイド核種の生成量をJENDL-4 .0及びJENDL-3.3を用いて計算した値である計算値と実測値の比を取って比較したものである。すなわち、計算値と実験値の比が1.0に近い程、その一致が良く、予測精度が高いことを示す。
図からもわかるように、Pu−238やCm-244等マイナーアクチノイド核種の生成量の予測精度が大幅に向上しているのが見られる。また、JENDL-3.3ではあまり与えられていなかった誤差データが、JENDL-4.0では大幅に追加されたことによって、計算値に予測信頼度(誤差、図中JENDL-4.0の計算値に表示されている「I」型の表示)を付与できるようになった。これにより、実際の計算値にどの程度信頼性があり、設計等にどの程度余裕を見ればよいか、数値的な視覚化が容易になった。
図2には原子炉の設計で最も重要な中性子実効増倍率の計算値対測定値の比が種々の核燃料体系に対して与えられている。0.5%即ち0.995から1.005の範囲に入れば信頼度がたかいとされている。JENDL-4.0は幅広い核燃料体系に対して一様に信頼度の高い結果を与えるので、世界で最も優れた評価済み核データライブラリと言える。