平成21年12月22日
独立行政法人日本原子力研究開発機構

大面積電極を用いた核融合炉用大電流ビームの高エネルギー化に成功
−ITER用中性粒子ビーム入射装置の開発に大きく貢献−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」)は、世界最大級の核融合実験装置「臨界プラズマ試験装置(JT-60)」の中性粒子ビーム入射装置の高エネルギー化に向けて研究開発を進めてきましたが、このたび、その心臓部であるイオン源の耐電圧を大幅に改善することに成功し、3アンペアの水素イオンビームを500キロボルトにまで加速することに成功しました。これは1アンペア以上のビームを500キロボルトまで加速した世界初の成果であり、現在建設中のJT-60SA1)(JT-60の後継装置)における要求を達成するとともに、国際熱核融合実験炉(ITER2))の中性粒子ビーム入射装置の開発に大きく貢献するものです。

中性粒子ビーム入射装置は、核融合反応に必要な数億度にプラズマを加熱したり、プラズマ中に電流を駆動したりするために用いられます。プラズマの中心部まで効率よく加熱・電流駆動するためには、JT-60SAでは500キロボルト、ITERや将来の核融合炉では1000キロボルト以上の高エネルギービームが必要とされます。このような高エネルギービームを生成するためにはイオンを高電圧で加速する必要があることから、高い耐電圧を有するイオン源の開発が急務とされてきました。しかしながら、この開発に必要な耐電圧特性については、小型電極(200cm2)に関する耐電圧特性の研究は進められていますが、JT-60SAやITERで要求される大電流ビームの生成に必要となる大面積電極(20000cm2)の耐電圧特性については全く未知のものでした。

このたび、原子力機構は、イオン源の耐電圧を高めるために、未解明の分野である大面積電極間の真空耐電圧特性を詳細に調べました。その結果、大面積電極の耐電圧特性は小型電極とは大きく異なり、はるかに大きな距離を電極と電極との間にとらないと耐電圧を確保できないことを初めて明らかにしました。また、単純に電極間の距離を広げると、加速電界が弱まることでビームが拡がって電極に衝突しイオンビームが減少するという問題があったため、イオンビームの軌道を詳細に計算して最適な電極間の距離を割り出しました。その結果、JT-60SAの実験に必要な500キロボルトまでイオンを安定に加速することに成功しました。

今回の成果は、同様の大面積の加速電極を有するITERの中性粒子ビーム入射装置に応用可能であるため、その開発に大きく貢献するものです。更に、学術的には真空放電現象の理解を促進するとともに、産業分野においても、今後大型化が見込まれる半導体基板の製造で使用するイオン注入装置等への波及効果が期待できます。

以上

参考部門・拠点:核融合研究開発部門

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