NAIST, JAEA

平成20年12月30日
国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
独立行政法人 日本原子力研究開発機構

世界初 酵素反応を活発にする高エネルギーの水素結合の存在を証明
中性子による解析法を開発し、低障壁水素結合を発見
〜新たな設計原理による創薬の道拓く〜

【概要】

大きな分子であるタンパク質の立体構造を構成する水素結合(水素同士の結合)は複雑な立体構造を保ち、酵素として触媒反応を行う際にも重要な役割を担っている。その水素結合のなかでもひときわ高いエネルギーで結びついた「低障壁水素結合」(LBHB)という特殊な相互作用が蛋白質にも存在していることが世界で初めて証明された。この成果は、奈良先端科学技術大学院大学(学長:安田 國雄)物質創成科学研究科博士後期課程3年山口繁生、上久保裕生准教授、片岡幹雄教授(日本原子力研究開発機構客員研究員を兼任)の研究グループが、独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長:岡ア俊雄)量子ビーム応用研究部門中性子生命科学研究ユニット生体分子構造機能研究グループ黒木良太研究主席、栗原和男研究副主幹との共同研究で、細菌の光走性に関わる光受容タンパク質(イェロープロテイン)を材料に、高分解能中性子結晶構造解析という方法を使い、成功したもの。特殊な結合は仮説として存在が予想されながら、見つからないため20年にわたる論争が続いていた。今回の研究では、低障壁水素結合が関与する光情報伝達の新たなメカニズムも提案した。

「低障壁水素結合」は、高圧下や結晶の内部など特殊な条件下においた有機低分子で形成されることは知られていた。蛋白質では、1990年ごろから、消化酵素が反応する際に、途中でできる中間体内部で過渡的に形成され、触媒反応を引き起こしていることが提唱されているが、直接的な証明はなく、存在するかどうか論争になっていた。今年、ノーベル化学賞を受賞した下村脩・ボストン大学名誉教授が発見したオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)の発光も「低障壁水素結合」が関係しているとされている。

今回の研究では、イェロープロテインが反応していない状態(基底状態)でも低障壁水素結合が存在していることを突き止めた。さらに、これまで活性中心の負イオンと対になるイオンと考えられていたアルギニンが正に帯電していないことを明らかにした。

これにより、低障壁水素結合が、タンパク質分子内部のイオンになりにくい疎水的環境でも、孤立した負電荷を安定化させていること、光を吸収することにより通常の水素結合に変わることで、光情報が蛋白質に伝わると言うこれまで知られていなかったメカニズムを提唱することに成功した。また、低障壁水素結合が形成される要因も明らかにした。

この研究成果は、蛋白質の構造安定性や機能発現の分子機構の理解を深めるばかりでなく、低障壁水素結合を任意に作り出すことによって、より強固な分子間相互作用を設計するという新しい創薬のデザイン原理を与えると期待される。

なお、本研究成果は、平成20年12月29日(月)から1月2日(金)までの間にオンライン発行されるアメリカ科学アカデミー紀要(Proceedings of National Academy of Science, U. S. A.)に掲載されます。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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