平成19年9月27日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
 
冷中性子ビーム分岐装置の小型実用化に成功
−中性子ビーム利用の機会増加へ−

 
 独立行政法人日本原子力研究開発機構【理事長 岡撫r雄】(以下「原子力機構」)は、世界最高レベルの反射率を両面に有する中性子用スーパーミラーを開発し、低エネルギー中性子1)(以下「冷中性子」)ビームを約0.3mの短距離で最大20度湾曲可能な、複数の出口を持つ小型冷中性子ビーム分岐装置(図1及び図2参照)を製作し、東海研究開発センター原子力科学研究所の研究炉「JRR-3」2)での実用化に成功しました。
 この結果、JRR-3での同時かつ複数実験の効率的な実施が可能となり、近年の中性子ビーム実験の需要増加に対応できることとなります。

 小型冷中性子ビーム分岐装置は、中性子源からビームを分岐して実験装置まで導く装置です。この装置の中核をなす中性子導管3)集合体は、両面中性子ミラー4)を0.2mm 間隔で50層に重ね合わせたものです。従来の装置はこの中性子ミラーの反射率が80%と小さく、冷中性子ビームを20度に曲げた場合、効率的な実験に必要な強度のビームが供給困難でした。

 そこで、高性能化に不可欠な中性子ミラーの反射率を向上させるために、大型シリコン薄板基板(厚さ0.2mm)を用い、世界最高レベルの反射率(90%)を両面に有するNi/Ti(ニッケル/チタン)多層膜スーパーミラーを開発しました。
 この中性子用スーパーミラーを用いた中性子導管集合体を製作することで、従来の分岐装置に比べて出口強度(中性子の量)が、従来の1.1×106個/(cm2・s)から理論通り1.6×107個/(cm2・s)と10倍以上向上した結果、短時間で精度の良い実験が可能となりました。

 今後冷中性子ビームは、「水の分布」の測定が重要な、植物(農業)の研究に使用が増えることが期待できます。また、非破壊の化学分析が出来ることから、食品に含まれる重金属等の元素分析に使用が増えることが期待できます。さらに、冷中性子ビーム分岐装置の技術は、現在、茨城県東海村で建設中のJ-PARC5)の中性子ビームライン等にも適応可能であり、今後の中性子研究を推進する様々な利用が期待されています。


 ・補足説明
 ・用語解説
以 上

参考部門・拠点:東海研究開発センター 原子力科学研究所


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