【用語解説】


1)高温ガス炉
 高温ガス炉は、@冷却材には化学的に不活性なヘリウムガスを用いているため、冷却材が燃料や構造材と化学反応を起こさないこと、A燃料被覆材にセラミックスを用いているため、燃料が1600℃の高温に耐え、核分裂生成物(FP)の保持能力に優れていること、B出力密度が低く(軽水炉に比べ1桁程度低い)、炉心に多量の黒鉛等を用いているため、万一の事故に際しても炉心温度の変化が緩やかで、燃料の健全性が損なわれる温度に至らないこと等の安全性に優れた原子炉である。また、900℃を超える高温の熱を原子炉から取り出せることから、熱効率に優れるとともに、水素製造等の発電以外での利用など原子力の利用分野の拡大に役立つ原子炉である。





2)第4世代原子力システム
 第4世代原子力システムは、米国において提唱されたもので、第1世代(初期の原型炉的な炉)、第2世代(PWR、BWR、CANDU炉等)及び第3世代(ABWR、AP600等)に続く原子力システムであり、2020〜2030年頃の実用化を念頭においている。本原子力システムが具備すべき要件として、持続可能性(燃料の効率的利用、廃棄物の最小化と管理、核不拡散抵抗性)、安全性/信頼性(安全/信頼できる運転、敷地外緊急時対応の不要)、経済性(ライフサイクルコストの優位性)が提示されている。


3)超高温ガス炉(VHTR)
 超高温ガス炉は、900℃以上の原子炉出口温度で運転できる高温ガス炉で、第4世代の原子炉概念の一つとして採用されている。高効率発電とともに熱化学水素製造などの高温プロセス利用が可能である。我が国は上述のHTTRの建設・運転をベースとして研究開発の推進を主導している。また、米国、フランス等も高温ガス炉技術の開発を進めている。


4)高温工学試験研究炉(HTTR)
 我国初の黒鉛減速ヘリウムガス冷却型原子炉で、熱出力30MW、原子炉出口ガス最高温度は950℃である。平成10年11月10日に初臨界、平成13年12月7日に熱出力30MW及び原子炉出口ガス温度850℃、平成16年4月19日に原子炉出口ガス温度950℃を達成した。


5)黒鉛
 黒鉛材料は炉物理的性質が優れていること、誘導放射能が少なく、高温強度が高いこと等の理由から、高温ガス炉の炉心構造材として使用されている。(黒鉛は一般に、原料コークスのフィラー(粒子)をピッチなどのバインダ(結合材)と混合し、所定の形状に成形したあと、焼成、黒鉛化のための加熱処理をして製造される。)HTTRの炉心に用いられているIG-110黒鉛(東洋炭素(株)製)は、原料コークスと製法に特別な工夫をこらして製造された高強度で耐食性に富む微粒等方性黒鉛である。東洋炭素(株)製の黒鉛は、中国の実験炉HTR-10でも採用されている。


6)dpa (displacements per atom)
 照射による格子原子のはじき出し損傷量を表す単位。照射領域に存在する全格子原子数に対するはじき出された格子原子数の比で表される。


7)黒鉛の照射効果
 原子炉内で高エネルギーの中性子が黒鉛材料に衝突すると、原子のはじき出しにより格子欠陥が生成する。欠陥の種類や量は照射温度や中性子のエネルギーによって異なり、それに起因して黒鉛材料の寸法、弾性率、強度、熱伝導率、熱膨張係数等が変化するため、原子炉内黒鉛構造物の健全性評価においては照射効果を考慮することが重要である。
 照射効果は黒鉛の原料、製造方法によって異なり、これまで、日本のIG-110、米国のH451等様々な黒鉛銘柄の照射データが取得されている。HTTRの設計・製作のため、IG-110については中性子照射量約2dpa(displacements per atom:照射による格子原子あたりのはじき出し数)程度までの照射データベースが構築されているが、超高温ガス炉の設計においては、より高い照射量のデータが必要とされる。

もどる