【補足説明資料】


1. 原子力エネルギー基盤連携センター
 原子力機構は、産業界等と連携して原子力エネルギー基盤研究を効率的かつ重点的に推進するため、平成18年1月1日付けで「原子力エネルギー基盤連携センター」(以下、「連携センター」という。)を設置しました(図1)。
 連携センターは、原子力機構の活動の大きな柱である、産学との連携強化による社会のニーズを踏まえた研究開発の効率的な促進をめざし、産業界等との研究協力を集約的に行うことにより、原子力エネルギー基盤研究分野における我が国の拠点となることを目指しています。
 連携センターでは、これまでに再処理材料分野、熱流動分野、非破壊検出分野と3つの分野で機構外の機関との共同研究に取り組んでおり、今回のVHTR技術開発分野での共同研究は4件目になります。





2. 高温ガス炉用黒鉛材料の説明
 黒鉛材料は、高温ガス炉の燃料体、反射体などに用いられています。ここでは、HTTRの燃料体を例に取り説明します。燃料の最小単位は直径1mm程度の被覆燃料粒子です。これは高温ガス炉特有の燃料形式で、微小な球で燃料核(ウランの酸化物等)を芯としてその外側を耐熱性に優れた炭化ケイ素等のセラミックスで四重に包んだものです。この被覆燃料粒子(約1万3千個)を黒鉛粉末と均一に混合し焼き固めて燃料コンパクトを形成し、燃料コンパクトを黒鉛スリーブに入れて燃料棒とし、その燃料棒を六角状の黒鉛ブロックに挿入して燃料体とします(図2)。
 HTTRでは、この黒鉛ブロックに東洋炭素(株)製の微粒等方性黒鉛IG-110を用いており、炉心全体では150体の燃料体を装荷しています。そのほかに、反射体ブロック、制御棒案内ブロックなどにもIG-110が用いられています。(図3)







3. 黒鉛材料への中性子照射効果
 黒鉛を炉内構造物に用いる場合、中性子照射による特性変化を考慮する必要があります。照射による特性変化は、黒鉛の銘柄ごとに異なるので、炉内構造物の設計にあたっては、事前に照射試験を行い照射効果のデータベースを作成する必要があります。今回の試験では、世界的にも照射データが少ない高温(最高1000℃を目標)、高い中性子照射量(約4dpa (displacements per atom:照射による格子原子あたりのはじき出し数) 以上、)でのデータ取得を予定しています。(図4)




 原子力機構で推進している超高温ガス炉(VHTR, Very High Temperature Reactor)の研究開発においては、黒鉛構造物の長寿命化を目指しています。原子力機構では、これまで、試験研究炉であるHTTRの開発のため照射データベースを蓄積してきましたが、実用炉であるVHTR開発のためにはさらに多くの照射量(HTTRの2倍以上)に対する特性変化を把握する必要があります。そのためには、照射データの取得・評価が重要な課題ですが、各種の照射条件(温度、照射量)における照射データを蓄積することは容易ではなく、限られたデータを基に照射効果を評価する手法を開発することが重要になります。
 そこで今回、東洋炭素(株)と共同で、黒鉛材料の微細構造(結晶構造、気孔状態等)に基づき、構造物しての照射効果を評価する手法を開発していくこととしました。その際、原子力機構の大洗研究開発センターにある高速実験炉「常陽」を用いて照射データを取得し、評価手法を検証することとしています。この評価手法については、照射によって黒鉛が収縮する領域及び更なる照射によって膨張する領域の全般を扱うことを目的とし、データもそれに対応した照射領域まで取得する予定としています。
 本研究によって、現状のVHTRの設計のみならず黒鉛構造物の長寿命化の研究が大きく進展するとともに、製造過程へのフィードバックも期待しています。


4. 高速実験炉「常陽」での照射試験
(1) 高速実験炉「常陽」の概要
 燃料にウラン-プルトニウム混合酸化物(MOX)を用いた、我が国初の高速炉です。昭和52年4月に初臨界を達成し、高速増殖炉の炉心及びナトリウム冷却系の基本性能を確認した後、主に高速炉用燃料や材料に中性子を照射して、そのふるまいを調べる照射試験に利用されています。現在のMK−III炉心(熱出力140MWt)は、中心部の高速中性子束が約4×1015n/cm2・sに達します。その高い中性子照射能力から、高速増殖炉開発のみならず、各種原子力用材料の照射試験、照射による材料への損傷を調べる基礎研究等にも有効であり、内外の利用者に対して幅広い照射試験の機会を提供しています。

(2) 黒鉛材料の照射試験に用いる装置
 今回の黒鉛材料の照射試験には、図5に示す材料照射用の照射装置を利用する計画です。照射装置の外側形状は、炉心燃料集合体や反射体等と同様、六角形のラッパ管の下部に冷却材を導入するエントランスノズルが設置され、上部には燃料交換機で取り扱うためのハンドリングヘッドが設置されています。装置中央部には軸心管があり、その周囲にコンパートメントと呼ばれる容器が6本配置されています。コンパートメント及び軸心管内に、黒鉛材料を収納した照射キャプセルを装填します。




(3) 運転計画
 本照射試験は、「常陽」の第15回施設定期検査の後、平成20年度後半に開始予定の第7サイクル〜第11サイクルの運転期間に200日前後(3サイクル〜4サイクル程度)炉内反射体領域にて実施され、その後照射後試験施設において、黒鉛材料の照射挙動確認のための照射後試験を実施する計画です。




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