補足説明資料

天然高分子は、糖質、タンパク質、核酸等があり、糖質の中でもセルロースは、炭素、水素、酸素を構成元素とするブドウ糖(グルコース)のみからなる多糖類で、そのブドウ糖は植物の光合成によって水と炭酸ガスから生産され、地球上に年間1000億トン以上も多量に生産されるバイオマスであります。セルロースは、主成分もしくは添加成分として綿製品の衣類、木造住宅・家具、紙、段ボール、家電製品中のプリント基板、食品、化粧品、薬、ハミガキ、液晶ディスプレイ、人工透析用中空糸など汎用材料から、高機能ハイテク材料、医療材料等に至るまで広範囲に利用されています。
 地球温暖化や資源枯渇の問題を考えると、石油を原料として合成された材料の代わりに、植物等の天然物由来の生分解性を有するカーボンニュートラル1)な材料を利用することが理想です。セルロースをはじめとする多糖類を用いたゲル2) は、これまで架橋剤を使用して製造してきましたが、残留架橋剤の毒性が危惧されています。
 電子加速器やコバルト60ガンマ線(γ線)照射施設を用いて耐熱性、加工性といった材料特性を改善できる放射線橋かけ技術3)において、近年、図1に示すようなカルボキシメチルセルロース(CMC)4) やカルボキシメチルデンプンなどの多糖類誘導体は放射線では分解してしまいますが、10%濃度以上のペースト状で照射することにより、多糖類を橋かけする技術が開発されています。この技術によって製作したCMCハイドロゲルは、高吸水性を有する優れた特徴を持つ反面、膨潤状態で脆く壊れてしまうため、吸水性を生かした分野への使用に限られていました(図2)。




 今回、この問題を解決するため、橋かけ技術を適用し、さらに酸処理をすることによりゴムのような弾性を付与した多糖類弾性ゲルの開発に成功しました。また、作製できる形状に制限はあるものの、酸処理だけでも弾性ゲルの作製が可能なことを見出しました(図3)。このゲルは、有機、無機の様々な酸で、濃度を問わず作製することが出来ます。このゲルの50%圧縮した際の弾性率を測定した結果、20%濃度のCMCペーストにγ線を20kGy照射して橋かけしたCMCゲルを酸処理して得られたCMC弾性ゲルの強度が未酸処理ゲルの150倍にあたる 3N/mm2に向上しております。50%圧縮後の形状回復し、圧縮前と同じ形状を保ちます(図4)。




 本成果は、12月8日〜10日に東京で開催される第17回日本MRS学術シンポジウムにおいて発表する予定です。この新規ゲルは家畜排出物処理材等の農業分野、パック材等の化粧品分野、徐放薬剤基材等の医療分野、緩衝資材等の建築分野、金属吸着材等の環境分野等の様々な分野での応用が期待されます。


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