【補足説明】
 
1.「成果展開事業」について
 日本原子力研究開発機構(以下、「原子力機構」という)では、保有特許を有効に活用するための方策のひとつとして、中小企業が保有特許を利用した製品開発を提案し、原子力機構は通常実施権での特許実施許諾とともに資金面でも開発活動を支援(必要経費の半額、最高500万円まで補助)する「成果展開事業」を、前身である核燃料サイクル開発機構から継続して実施しています。今年度の募集にあたっては、原子力機構のもう一方の前身である日本原子力研究所が保有していた特許についても利用対象に含めることにより、中小企業のさまざまな製品開発アイデアに幅広く応えられるようにしています。


2.真空熱天秤装置の製品化の経緯と今後の社会貢献
 原子力機構は、昨年11月に核融合技術を活用したガス分析装置「グラビマス」を開発し、共同開発者である日本金属化学株式会社は「グラビマス」の商品化を実現するとともにアルミニウム材の含有ガス分析事業を開始しました。同社は、この事業展開において含有ガスの成分毎の重量測定に対するニーズを把握したため、さらに原子力機構の保有する特許を活用して真空熱天秤を実用化/製品化することによってこのニーズに対応できると考え、平成18年度の「成果展開事業」への応募に至りました。原子力機構では、応募内容がアルミニウム鋳造部品ばかりでなく様々な素材に適用できる基幹的技術の開発に導くものと判断し、同社からの提案を採択し積極的に製品化の支援をしました。
 真空熱天秤装置の開発は、ガス分析装置グラビマスの製品化と併せて、ガスクロマトグラフィーが主流のガス分析技術に新たな展開を切り開く3)ものであり、様々な素材の品質管理におけるトレーサビリティー(履歴管理)を実現できる標準化技術として利用されることが期待されます。


3.真空熱天秤装置の特長について
 今回開発した真空熱天秤装置は、電子天秤(原子力機構の特許で茨城県の新光電子株式会社が商品化)、真空排気装置、試料吊り下げ部、真空容器、試料加熱用ヒーターなどで構成されています。本装置に市販の質量分析計を装着することにより、現場での簡易ガス成分分析も可能になります。
 本装置の技術的特長は、真空方式、断熱技術、秤量という3つの新技術開発によって、1ヶ月以上もの長期零点安定性を確保4)し、高分解能測定を実現5)したことです。
 (1) 真空方式
 試料の周囲を10−4Pa以下の高真空状態6)にすることにより、試料にはたらく浮力の効果を最小化するとともに、残留する空気によって試料が変質することを防ぐことができました。
 (2) 断熱技術
 従来の技術では試料を上皿に載せる方式が一般的であり、試料が高温の場合には天秤本体への熱伝導により長時間の安定した測定ができませんでした。本装置では、試料の吊り下げ方式を採用し、高温の試料から放出される熱の遮蔽技術を開発し、電子天秤本体への熱的影響を排除できました。
 (3) 秤量
 最大60gの試料重量に対して、最小秤量100μgを実現する電子天秤を開発しました。さらに、工場などの測定現場で容易に移動させることができるとともに、地面の振動などの影響も防止できるような構造にしました。



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