用語解説
 
プラズマ
 固体、液体、気体に次ぐ物質の第4の状態と呼ばれ、気体が高温となり原子のイオンと電子がばらばらになった状態を指す。プラズマの温度を上げるには、プラズマを閉じ込めて、これにエネルギーを注入する必要がある。閉じ込めには、気体のように金属の箱を用いると、壁に接触したときにすぐ冷えてしまい、プラズマも消滅してしまう。一方、イオン、電子ともに、磁場が存在するとこれに巻き付いて拡散が抑えられるため、磁場を用いて壁に接触しないように、いわゆる“磁気のかご“で閉じ込める方法が一般的に採用されている。ITER等のトカマク型核融合炉では、ドーナツ型の磁場をつくり、プラズマを閉じ込め、定常的な核融合反応を目指す。

高周波加熱
 一般に、電子レンジのように、電磁波(高周波)のエネルギーで物質を加熱することを指す。プラズマの場合、一般に吸収率が悪く高周波は突き抜けてしまう。これは、光が空気中を透過することと同じである。しかし、特定の周波数の高周波は、非常に良くプラズマに吸収される。ITERのプラズマでは、170ギガヘルツ付近の高周波がこれにあたる。この周波数の高周波は、磁場に巻き付いた電子の回転周期と同じ周期を持つ。すると、高周波と電子の間に共鳴が起こり、高周波のエネルギーで電子の温度を急上昇させることができる。次いでこの電子のエネルギーがイオンに伝わり、核融合反応に必要な1億度以上までプラズマの温度を上げることができる。このために、ITERでは、周波数170ギガヘルツで、パワー2万キロワットの高周波加熱が計画されている。

ジャイロトロン
 170ギガヘルツで、1000キロワットレベルの高周波を発生させる電子管。ITERでは、24本使用され、日本(原子力機構)の他、ロシア、ヨーロッパで開発中であり、ITERに8本ずつ供給する計画になっている。
 内部が真空に保たれた管を磁場中に置き、電子ビームを加速する。この磁場に巻き付いた電子ビームの回転エネルギーを高周波に変え、セラミックの出力窓を通して外部に出力させる。ジャイロトロンの名称は、電子の回転運動(ジャイロ運動)に由来する。現在、100ギガヘルツ帯で、1000キロワットの大電力を発生できる唯一の装置であり、核融合研究の中で発明され、発展してきた。今後、核融合研究以外の応用も期待されている。

人工ダイヤモンド窓
 ジャイロトロンの出力には、真空を封じるとともに高周波を通すことのできるセラミック製の出力窓を用いる。低い周波数では、簡便なアルミナ(アルミニウムの酸化物)等が用いられてきたが、高周波の周波数が高くなるにつれ、吸収係数が大きくなるため、ジャイロトロンでは、これに変わる材料として、人工サファイア等が用いられた。しかし、人工サファイアでも170ギガヘルツで1000キロワットの高周波を通すと、1秒間で数百度も上昇してしまい、連続運転は困難であった。この問題を解決する唯一の材料が、原子力機構が1997年に初めてジャイロトロンへの搭載に成功した人工ダイヤモンドである。人工ダイヤモンドは、従来材料に比べ、高周波の吸収率が1/10以下と低く、熱伝導率は約50倍も高い。そのため、材料の温度上昇も1000キロワットの出力で数十度程度に抑えることができ、連続運転が初めて可能になった。この人工ダイヤモンドは、高周波を用いて炭素のプラズマを維持し、結晶成長させてつくるもので、技術の連鎖という観点で興味深い。
 なお、ジャイロトロンで使われた人工ダイヤモンドの直径は約100ミリメートル、厚み1.8ミリメートルの多結晶円板である。

ITER標準運転時間
 ITERでは、まず400秒の燃焼実験を目指した実験を行う予定である。ここで投入される加熱電力は、170ギガヘルツの高周波2万キロワットを含めた5万キロワットで、予定される核融合出力は50万キロワットである。

プラズマ中の加熱位置とプラズマの制御や閉じ込め改善への応用
 高周波ビームの幅は、ITERのプラズマに比べると非常に小さい。そのため、狭い場所を選択的に加熱できる。加熱場所は、入射する角度を金属鏡の反射角度を制御することによって選ぶことができる。具体的には、プラズマの中心を加熱したり、周辺部を加熱したり、実験目的によって選択することができる。
 特に、トカマクプラズマには、不安定性の発生場所があり、この場所から不安定性が広がるとプラズマの閉じ込めが劣化する。これを抑えるために、発生場所にエネルギーを吸収させ、この部分に電流を選択的に流すことにより、プラズマを安定化させることができる。ITERでも、このプラズマの安定化が高周波加熱の大きな役割の一つと期待されている。

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