補足説明
原子力機構の日本海海洋調査研究

(1) 日本海海洋調査の意義と経緯
 日本海は、海水の出入口が浅くすり鉢状の準閉鎖系海域であり、全球的な環境変化による海洋への影響評価のモデルとするのに適した「ミニ大洋」として知られている。また、周囲には多くの原子力施設があるため、日本海における物質移行の解明は、日本海の水産資源の安全性を評価する上でも重要な課題と言える。原子力機構における日本海海洋調査は、1994年と95年に実施された第1回及び第2回日韓露共同海洋調査に始まった。この共同調査の目的は、日本海及びその他周辺海域に投棄された放射性廃棄物による影響の状況を調査することであった。投棄海域の海水及び海底土で検出された人工放射性核種は、投棄海域外のデータ及び大量投棄(1986年)以前のデータと比較することにより、核実験フォールアウトに起因するものであり、人体に影響のない濃度レベルであることが確認された。投棄された放射性廃棄物による影響はこれまでの調査航海では見られない。その後、原子力機構は、むつ事業所を拠点として、日本海における海水循環及び物質移行のプロセスを解明することを目的として、国際科学技術センター(ISTC)パートナープロジェクトの下でロシア極東水理気象


図1    原子力機構が実施/参加した日本海海洋調査の調査地点
(日韓露共同海洋調査の2回は除く)
   
ISTC: ISTCパートナープロジェクト(4回)
STA, MEXT: 科学技術庁/文部科学省受託調査(7回)
Hokusei: 北星丸航海(北海道大学との共同研究:3回)
Hakuho: 白鳳丸航海(九州大学との共同研究:1回)
JAERI: 原研独自航海(1回)



研究所(FERHRI)と協力し、日本海のロシア側排他的経済水域内で海洋調査を実施した。ISTC調査は、ロシア側排他的経済水域内で近年実施された我が国唯一の海洋放射能調査であった。また、ISTC調査と並行して、文部科学省からの受託調査及び北海道大学・九州大学との共同研究により日本側排他的経済水域内の調査も実施した。以上の調査では、水温、塩分、海流等の海洋学データを取得するとともに、調査海域内において海水、海底土及び沈降粒子試料を採取し、それらに含まれる放射性核種等の濃度測定を行った。これまで実施した調査によって、現時点で日本海の調査可能な海域をほぼ網羅することができた(図1)。


(2) 海洋調査の方法
図2 日本海海洋調査の方法
使用した調査船は、共同研究相手が所有する調査船または傭船会社からの傭船であった。調査項目は、大量採水/採泥、現場式水温塩分計測装置付き多層採水(CTD/MBS)、流向流速計とセジメント・トラップを装着した係留系の設置と回収であった。分析・測定については、船上では溶存酸素、栄養塩、クロロフルオロカーボン類(CFC)を測定し、陸上実験室では人工及び天然放射性核種、金属元素、トリチウム(3H)、炭素14及び炭素13(14C、13C)、ヨウ素129(129I)を測定した。
図3 係留系の回収作業
ロシア側排他的経済水域において、ロシア極東水理気象研究所(FERHRI)が所有する「プロフェッサー・クロモフ号」を使用して、2001年の調査航海で設置した係留系(2機の流向流速計と2機のセジメント・トラップを装着)を、1年後の2002年の調査航海で回収している作業の様子を写したものである。


(3) 今後の予定
 上記の調査航海で採取した海水試料を用いて、むつ事業所に設置された加速器質量分析装置(AMS:図4)により、溶存無機炭酸中の放射性炭素(14C)を引き続き測定しており、この測定結果に基づいて、今後日本海の水塊構造、長期間の海水循環等を解明する。また、原子力機構独自航海、他機関との共同研究、ISTCレギュラープロジェクトへの参加等を通じて日本海海洋調査を継続することにより、未実施海域及び重要海域の調査、現象の年変動の検討などより詳細な現象解明を実施する。原子力機構における原子力環境研究に関する現行の中期計画では、「日本海における物質循環挙動予測モデルの開発を行う」ことが主要課題の一つである。これまで実施した調査航海及び今後実施する調査航海で得られたデータと知見は、現在開発中である日本海を対象とした海洋環境評価システム(海水循環予測コード、物質移行予測コード等から構成される)の検証と改良に役立つと期待される。


図4    むつ事業所に設置された加速器質量分析装置(AMS)



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