平成17年11月8日
独立行政法人
日本原子力研究開発機構
 
プルトニウム化合物のフェルミ面の観測に成功
 
 独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 殿塚猷一、以下「原子力機構」)は、東北大学(総長 吉本高志)、京都産業大学(学長 坂井東洋男)、大阪大学(総長 宮原秀夫)と共同して研究を行い、プルトニウム化合物のフェルミ面(伝導電子の運動量の空間分布)の観測に世界で初めて成功した。
 フェルミ面は、金属の顔とも呼ばれ、金属の性質を特徴づける重要な物理量である。これまでに、金や銀などの単体金属のほか、超伝導体など様々な物質に対してフェルミ面が観測され、これらの性質の理解に重要な貢献をしてきた。フェルミ面を観測する手段として、極めて純良な試料と極低温・強磁場という実験環境で生じる、磁化率の量子振動現象が用いられる。ところがプルトニウムの場合は、それ自身が出す強い放射能のため、育成した単結晶が短時間でダメージを受け、これまでにこの量子振動を観測した例はない。
 今回、原子力機構において、フラックス法と呼ばれる結晶成長方法によりプルトニウム化合物PuIn3の極めて純良な単結晶を育成することに成功した。育成後、放射線による損傷を防ぐために、試料容器への密封や実験装置への輸送を短時間で行い、絶対温度0.1K以下の極低温で実験を行った。その結果、プルトニウム化合物において初めて量子振動の観測に成功し、フェルミ面を決定した。また、PuIn3の電子が、自由電子に比べて数倍重い有効質量を持って固体中を運動していることがわかった。
 プルトニウムは核燃料物質として知られているが、単体プルトニウム自身、多数の構造相転移を起こすなど他の元素には見られない特異な性質をもつ。また、最近では高い温度で超伝導を示すプルトニウム化合物が発見されるなど、注目が集まっている。今回の成果は、プルトニウムを構成する電子 - 5f電子 - が、結晶中を自由に動き回っていることを直接示した初めての成果である。このことは、プルトニウム化合物超伝導体に2次元電子状態が存在することを示唆しており、高い超伝導転移温度の起源解明に結びつくものである。さらに、実用化が進んでいる高温超伝導体は、プルトニウム化合物超伝導体と電子状態が似ており、これらのメカニズム解明にも大きく寄与する。
 この研究成果は、日本物理学会誌(英文誌)11月号に速報として掲載される。また、同誌の注目論文(Papers of Editors’ Choice)にも選出された。


 ・補足説明

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