平成17年10月21日

ウラン残土撤去土地明渡等請求控訴事件・原子力機構「準備書面」(平成17年10月21日付け)の概要

独立行政法人 日本原子力研究開発機構

 本準備書面は、一審原告(方面区民[個人])の平成17年8月31日付け準備書面における妨害排除請求権の要件、方面ウラン残土に起因する放射線による人体への影響等に関する主張に対し、@原子力機構の反論を述べるとともに、A本件訴訟を早期に結審し、原告の請求をいずれも棄却するとの判決を言い渡されるべきである旨を述べたものである。

1.妨害排除請求権及び妨害予防請求権の要件
 ◇ 一審原告は、引用の各判決に照らし、妨害排除請求権行使の要件としては、原子力機構が指摘するような健康被害や健康に対する影響が「客観的、現実に存在」することは不要であり、放射能による影響の「おそれ」ないし「可能性」で必要・十分であると主張する。
 ◇ しかし、引用の各判決は、一審原告の主張を裏付けるものではない。
 (1) 東京地裁平成6年7月27日判決、東京高裁平成8年3月18日判決
一審原告は、上記各判決は、客観的に危険性が実証されていないにもかかわらず、その「可能性」により妨害物の撤去を命じていると主張する。
しかし、上記各判決には、単なる「可能性」をもって妨害排除請求を認める旨の判示はない。
 (2) 広島高裁昭和48年2月14日判決
@ 一審原告は、「請求権者(土地所有者)の主観的な意思のみによって、妨害排除請求権を認容した判例は見あたらない。」ことを自ら認めつつ、「請求権者の主観的な意思は、妨害排除請求権の行使においては、検討されている事項の一つである。」と主張し、その根拠として上記判決を挙げる。
 しかし、上記判決は、一審原告も自ら認めるとおり、「感情的な不快感・・・を受けるに過ぎない場合、差止請求を許すべきでないことは当然である。」と判示しているのである。また、上記判決には、「懸念」、「ためらい」といった請求権者(原告)の主観的な意思が妨害排除請求権の行使の適否の判断に際して検討すべき要素である旨の判示はない。
A なお、一審原告は、妨害排除請求権の行使の要件として、「危険性が極めて大きいこと」を明示的に要求しているのは、原子力機構引用の東京高裁平成元年1月31日判決だけであり、「危険性が極めて大きいこと」を妨害排除請求権の行使の要件として一般化することには疑義があると主張する。
 しかし、広島高裁昭和48年2月14日判決も、健康上、日常生活上の悪影響の高度のがい然性(具体的、現実的可能性)を理由として、妨害排除請求を認めているのであるから、一審原告の上記主張は理由がない。
B また、一審原告は、原子力機構引用の鹿児島地裁平成9年3月24日判決は、「危険性が極めて大きいこと」を要件として必要としているとは言えないと主張する。
 しかし、同判決が妨害排除請求権の行使の判断に当たり、高度の危険性の有無を前提として判断していることは、同判決の判示から明らかである。
 (3) 最高裁平成6年3月24日判決
 一審原告は、上記最高裁判決を挙げて、請求権者(原告)の主観的な意思は、受忍限度の範囲内か否かの判断に当たり考慮されていると主張する。
 しかし、受忍限度論は本件訴訟には適切ではないし、上記最高裁判決には、一審原告が主張するような主観的な意思を考慮すべき旨の判示はない。

2.方面ウラン残土に起因する放射線による人体影響の有無に関する立証責任
 ◇ 一審原告は、実際に、どのような病気に将来罹患し得るのか、どのような症状が発症するのか等を原告が「具体的に立証する必要はない」と主張する。
 ◇ しかし、民事訴訟法上、放射線による健康影響について、訴訟を提起した原告の立証責任を免除する旨の条項はないから、一審原告の上記主張は失当である

3.方面ウラン残土に起因する放射線による人体影響の有無
 ◇ 一審原告は、「どんなに微量の被曝であっても、人類に対して影響があること自体は、現在、科学的には議論の余地はない」と主張し、その根拠として米国科学アカデミーの報告書等を挙げる。
 ◇ しかし、同報告書等により、一般公衆に対する線量限度(1mSv/y)程度の低線量放射線の被ばくにより人体に影響が生じるとの実証性のある科学的知見が得られたと言うことはできない。
 ◇ したがって、方面ウラン残土約2,710m3に起因する放射線によって現実に人体に対して影響が生じると言うことはできないのであるから、約2,710m3に係る撤去請求等は失当である。
(なお、方面ウラン残土約290m3は既に撤去済みであるから、これと原告所有土地との位置関係等を論じるまでもなく、約290m3に係る撤去請求等は失当である。)
 @ 米国科学アカデミーの報告書
 上記報告書は、疫学的研究や動物実験から低線量被ばくによる影響が明白となったとは述べておらず、むしろ、その限界を指摘している。
 A フランスの医学アカデミー及び科学アカデミーの報告書
 上記報告書も、100 mSv以下の低線量域では、疫学により統計的に有意なリスクを検出することは難しいのが現状であると述べている。
 B 国際がん研究機関の調査結果
 上記調査結果については、データを提供した(財)放射線影響協会自体が、この調査結果により、低線量放射線による明確な健康影響が見出されたとの性急な解釈、判断は厳に慎むべきであると述べている。

4.結論(早期結審・一審原告の各請求棄却判決言渡しの要請)
 @ 方面ウラン残土約290m3は既に撤去済みであるから、この撤去請求等は失当である。
 A 現在の科学的知見に照らし、方面ウラン残土約2,710m3に起因する放射線によって、現実に人体に影響が生じるとすることはできないから、原告所有土地の利用を妨害しているとは言えず、この撤去請求も失当である。
 B 一審原告は、方面ウラン残土約3,000m3の存在を十分認識の上、土地を取得したのであるから、精神的被害を被ったということはできないから、慰謝料請求も失当である。
 C よって、速やかに結審し、一審原告の控訴を棄却するとともに、鳥取地裁判決を取り消し一審原告の請求を棄却するとの判決を言い渡されるべきである。
以 上
【参考】低線量の放射線による人体への影響に関する各種関係機関の見解

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