補足資料

大強度陽子加速器(J-PARC)計画における中性子検出器開発のねらいと現状

 J-PARC計画の物質・生命科学実験施設では、中性子回折散乱による高温超伝導体の機能解明、生物タンパク質の水和構造と機能発現、高分子の高次構造などの物質・生命科学研究や、高性能エンジンなどの残留応力解析などの産業利用、中性子ラジオグラフィ及び即発ガンマ線分析による工業・農業製品の非破壊検査などが展開され、新たな産業創成に対する期待が高い。
 当該施設には、23本の中性子ビームラインが設置されるが、この中で、原子力機構とKEKは合計10台の中性子分光器を、先行実験装置として建設・運用することを計画している。また、茨城県ビームラインとして産業利用関連の2台の装置の建設を進めている。(図1参照)



 これらの中性子実験装置では、JRR-3の100倍以上の大強度パルス中性子を最大限利用することによって、広範なサイエンスとテクノロジーの分野でのブレークスルーをねらっているが、現状、既存の中性子検出器は、これらの性能要求を十分には満足しておらず、世界各国で研究開発が急がれているのが現状である。
 今回、原子力機構では、中性子検出器のうち中性子を光信号に変換して検出するシンチレータ検出器において、従来のZnS/6Liシンチレータの検出効率を1.5倍に増加させたほか、シンチレータの発光成分から短寿命成分のみを選択することによって計数率を向上させるなどの検出法の研究開発に成功した。これらによって、物質・生命科学実験施設に設置する分光器のうち、残留応力構造解析装置などの装置の飛躍的な性能向上が見込まれる。



大強度陽子加速器(J-PARC)計画の概要

 独立行政法人日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構が共同で建設を進める世界最大の加速器複合研究施設。通称J-PARC計画(Japan Proton Accelerator Research Complex)
 リニアック、3GeVシンクロトロン、50GeVシンクロトロン等の大電流加速器を用いて陽子ビームを加速し、物質衝突による2次粒子(中性子、ニュートリノなど)を用いた先端研究が展開される。
 パルス中性子を使った物質・生命科学実験施設、原子核・素粒子実験施設、ニュートリノ実験施設、核変換実験施設から構成される。2007年度完成、2008年度からの利用を目指して東海村に建設中。総工費約1500億円余り。


用語説明

CCLRC
 英国の中央研究所研究評議会 The Council for the Central Laboratory of the Research Councilsの略。中性子線、X線、レーザー光線を使用した最先端の大型研究施設を運営。ここに所属するラザフォード・アップルトン研究所のパルス中性子源施設(ISIS)は現在世界最大のパルス中性子実験施設である。

SNS計画
 米国DOEのもと、オークリッジ国立研究所、アルゴンヌ国立研究所、ロスアラモス国立研究所、ブルックヘブン国立研究所が共同でオークリッジに建設中の大強度陽子加速器プロジェクト。出力は、J-PARC計画とほぼ同等の1.4MW。J−PARCと異なり、パルス中性子を用いた物質・生命科学実験のみを行う研究施設。2006年に竣工予定。

ISIS増強計画(第2ターゲットステーション計画)
 CCLRCのパルス中性子実験施設(ISIS)の大強度陽子加速器計画。既存のISIS施設は、現在世界最大のパルス中性子実験施設で、2006年を目指して、第2ターゲットステーション施設を既存施設の隣に建設中で出力0.2MWを予定。

中性子
 陽子、電子などと同様原子を構成する素粒子のひとつ。低エネルギーの中性子は、物質に入射すると、原子や分子に散乱され、それらの配列や運動を反映した回折現象を示し、これを解析することで、物質構造を探索することができる。放射光、X線と相補的な利用がなされており、特に、X線等では見えにくい水素などの軽元素の観測に優れたプローブである。

パルス中性子実験施設
 中性子源には、原子炉の核分裂から定常的に発生する中性子を使用する定常中性子源と、加速器のように、パルス的(例として1秒間に25発)に発生する陽子ビームを水銀などのターゲットに衝突させて、中性子を発生させるパルス中性子源がある。

中性子検出器
 通常、陽子や電子などの放射線検出器は、陽子等がもつ電荷により、固体やガスを電離・増倍させ、その電荷を収集し測ることにより計測する。
 中性子は、その名のとおり電荷を持たないため、シンチレータと呼ばれる物質を用いて、中性子を一度アルファ線などの荷電粒子に変換させ、この電荷で光を発生させ、これを収集することにより中性子を計測する。他にヘリウムガスで荷電粒子に変換し、電荷を収集する方式もある。

大強度パルス中性子用検出器
 大強度パルス中性子源施設では、瞬間的に大強度の中性子が発生するため、従来の中性子検出器では、荷電粒子や光への変換、およびエレクトロニクスの処理速度が間に合わず、これらを数え切れない。このため、高価な中性子源を十分活かすことが出来ない。
 このため、シンチレータの高速化、高輝度化やエレクトロニクスの高速化などの大強度パルス中性子対応の研究開発が行われている。

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