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日本で初めて運転する高温ガス炉が初臨界に達しました

田中 利幸
高温工学試験研究炉開発部長
昭和40年 東京大学工学部卒業
同 年 同年日本原子力研究所入所
田中 利幸

 日本原子力研究所では、高温ガス炉の技術基盤の確立と高度化を図るとともに、 高温工学に関する先端的な研究が行えるHTTR(高温工学試験研究炉)の建設を進めています。 昨年11月10日、8年の歳月をかけて建設してきたHTTRが初臨界に達しました。 現在、出力上昇試験に向けて最終的な調整試験を行っています。

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高温ガス炉とは、どのような原子炉ですか?

 高温ガス炉は、冷却材にヘリウムガス、燃料の被覆材にセラミックス、 炉心の構造材に黒鉛を用いているので、きわめて安全性の高いことが世界的にも認められている原子炉です。
 ガス炉の燃料には、被覆燃料を使います。 これは、直径が1mmにも満たない黒い球状の粒で、ウランなどの酸化物や炭化物を芯として、 その外側を特殊な炭素や炭化ケイ素の薄いセラミックスで4重に包んだものです。 セラミックスの被覆は、 ウランを保護すると同時に、ウランの核分裂によって発生する核分裂生成物を燃料の外に漏れないように閉じ込める役目を果たします。 炭素や炭化ケイ素で被覆した燃料は、 金属で被覆した燃料よりも熱に強く、1,000C以上の高温でも溶けることはありません。
 原子炉から熱を取り出すための冷却材には、ヘリウムガスが用いられます。 核分裂反応が起こることで、1,000C近くの高温になった原子炉の炉心をヘリウムガスで冷やすと、ヘリウムガスに熱が移ります。 ヘリウムガスを循環させて、この熱を原子炉の外に導き、いろいろな実験に使います。 ヘリウムガスは化学的に不活性であり、高温でも燃料や構造物との化学反応を起こすことはありません。 つまり、高温でもきわめて安全なガスで、高温の熱を運ぶには最適な冷却材なのです。
 高温ガス炉の炉心の構造材には、中性子の吸収が少ない、 放射線に強い高温にも耐えて熱をよく伝えるという特性を持った炉心材料として優れている黒鉛が使われています。 この黒鉛は、燃料を安全に保つ機能と核分裂で発生したスピードの速い中性子のスピードを遅くし、 核分裂反応を維持する役目を果たしています。

原子炉本体

高温ガス炉の特長はどのようなものですか?

 高温ガス炉は、燃料の被覆材にセラミックス、炉心構造材に黒鉛を用いているので、万一事故が起きても炉心が溶けることはありません。 また、炉心は熱容量(熱をため込む能力)が大きいため、異常が発生して出力が大きくなった場合でも、炉心温度の上昇はゆるやかです。 このため、万一事故が起きた場合、緊急炉心冷却系を使わなくても、 原子炉圧力容器の外側からの自然放熱によって炉心の熱を自然に取ることができ、 運転員が適切な措置を講ずるための時間的余裕も十分に取れます。
 また、燃料及び構造材に使われる黒鉛は耐熱性が高く、また中性子の吸収が少なく、ヘリウムガス中で腐食することのない物質です。 このため長い間、燃料を燃やすことが可能で、より有効にエネルギーを取り出すことができます。
 さらに、ヘリウムガスで高温の熱を取り出すため、高い熱効率で熱を使用できます。 発電に使う場合にも、ガスタービン発電を行うことで、高い熱効率(約50%)が得られます。 熱効率は、他の原子炉(軽水炉)では約35%です。 したがって、それだけ熱の有効利用が図れ、環境中に放出する熱の量も少なくてすみます。

高温ガス炉の研究は、いつごろから行われているのですか?

 高温ガス炉の研究は、1950年代から世界で始められており、すでに40年ほどの歴史があります。 日本では、1969年に研究がスタートしました。そもそものきっかけは、製鉄の熱源であるコークスの代わりに、原子力で還元ガスを作って、これを熱源にしようというものでした。 ある程度まで研究が進んだ段階で、時代の流れが変わって、コークスに代わる還元ガスを原子力で作る必要がなくなり、研究はストップしてしまいました。
 その後、1986年に原子力委員会の中に「高温ガス炉研究開発専門部会」が作られ、高温ガス炉を今後どうするかの議論が行われました。 その結果、今すぐ実用化の見通しはないかもしれませんが、原子力利用分野の拡充に貢献するために長期的視点から研究を進めることになり、HTTRの建設をスタートさせることになりました。
 HTTR建設の目的は、高温の熱の取り出しによって多様な分野での利用の可能性が期待される高温ガス炉の技術基盤の確立、高度化および高温工学に関する先端的基礎研究を進めていくためです。

高温ガス炉の実績と計画

HTTRはどのように建設を進めてきたのですか?

 HTTRは1991年に建設が開始され、約5年をかけて装置の据え付けを完了し、その後に2年間をかけて燃料を入れない状態での機能試験を行いました。 一昨年の10月には機能試験も終わり、燃料を入れる段取りになっていたのですが、念には念を入れようということで、出力上昇試験以降にトラブルになるかもしれない部分を改良し、性能に余裕を持たせるなどの改善措置を行いました。
 HTTRの建設と性能試験には、少しでも懸念のあることは徹底的に解決していこうという姿勢で臨みました。 それは、事故や大きなトラブルは決して起こしてはならないからです。
 そこで、我々内部の人間だけでは思い込みでトラブルを招く可能性もありますので、外部の人の点検や指導を受けることにしました。
 日本では、黒鉛を用いた原子炉の運転経験があるのは日本原子力発電株式会社の人だけですから、この会社の人に来ていただいて点検を受けたり、京都大学の原子炉を建設した先生に指導を受けました。 また、課外のGA(ゼネラル・アトミックス)の技術者にも協力いただきました。 さらに、所内でも専門家集団のレビューチームを作り、問題があったときは念入りに点検と確認を繰り返してきました。
 このように点検・確認作業を念入りに行い、去年11月10日に臨界に達することができました。 これで、HTTRの建設は、ひとつの山を越えたことになります。

HTTR建設のあゆみ
昭和
多目的高温ガス炉
西暦 HTTR建設のあゆみ
44

48
概念設計
  • 熱出力50MW
  • 出力温度1,000C
1969

1973
49

55
システム総合設計
  • 系統構成の詳細化
  • システムの安全評価
1974

1980
56

59
基本設計
  • 熱出力50MW
  • 出口温度950C
1981

1984
60

63
  • 熱出力30MW
  • 出口温度850/950C
  • 照射試験、安全性実証試験
高温工学試験研究炉
1985

1988
平成
元年
2月建設許可申請 1989
11月建設許可 1990


HTTRの建設 1991

1997
10 11月初臨界 1998
11 出力上昇試験 1999
12 原子炉出力温度950C達成
定常運転
出力上昇試験(30MW達成)
2000
17
  • 水素製造装置設置
  • 照射試験
  • 安全性実証試験
2005
18
水素製造システム(水蒸気改質法)試験 2006

臨界とはどういう状態をいうのですか?

 ウランは中性子を吸収すると、核分裂して平均で2.43個の中性子を出します。 例えば、100個のウランが中性子を吸収して、250個の中性子ができたとします。この中性子のうち、ちょうど100個が別のウランに吸収されるようにコントロールされた状態を「臨界に達した」といいます。つまり、これは、核分裂反応が持続している状態を意味しています。
 HTTRの場合、炉心に燃料体をひとつひとつ慎重に詰めていき、17カラム(燃料体が85個入った状態)まで詰めた状態で、計算上では臨界に達するはずでした。ところが実際には17カラムでは、臨界に達しませんでした。ところが実際には17カラムでは、臨界に達しませんでした。
 その原因を探るために計算の見直しをしたところ、反応度で1.6%ほど計算に誤差があることがわかりました。 この誤差は、炉心を組むために使用した模擬燃料体の不純物が思ったより多く中性子を吸収 してしまうこと、炉心の構造材に使っている黒鉛の中に微量の空気が残っており、この空気に含まれている窒素が中性子を吸収してしまうこと、核データに微小のズレがあったことなどが原因でした。
 計算をやり直した結果、19カラムで臨界に達するだろうと想定して、燃料装荷と臨界試験を再開したところ、計算通り臨界に達しまいた。臨界に達した後は、残っているカラムにも燃料体を詰め、昨年12月16日にすべての燃料体の装荷が終了しました。

臨界に達した後は、すぐに出力上昇試験をするのですか?

 臨界に達したからといって、すぐに出力を上げるわけにはいきません。 その前に、制御棒は予定通りの中性子吸収能力を持っているか、炉心内の中性子束の分布は予定通りかなどの核特性試験をしなければなりません。 これは、出力上昇試験やその後の照射試験をするときに事故や大きなトラブルを起こさないようにするために、きわめて重要なことです。 特に、過剰反応度の確認は重要です。 これは、安全性及び運転性能の観点から、とても大切な物理量です。
 炉心の反応度は11.2%以上、16.5%以下であることが必要とされます。 それは、内蔵する反応度は、16.5%を制限値としており、また11.2%以上ないと、核分裂反応が所定の期間、持続しないからです。 確認した結果は12%でした。安全上も運転性能からも問題ないことが確認できたということです。
 今後は、原子炉の格納容器内の上部遮蔽体の熱を除去するために銅板を使っていますが、この効果を確認する試験や1次系冷却設備を40気圧にしたヘリウムガス漏れ試験などを行っていきます。これらが終了すると、格納容器そのものの閉じ込め性能の試験を行います。これで、出力上昇試験前の一連の性能試験が終わります。これらは、今年9月初旬には終了する予定です。
 その後、いよいよ出力上昇試験という段取りになりますが、最初は1万キロワットで運転を始め、徐々に出力を上げていき、最終的には当初の予定の3万キロワットの運転を行います。 ここまで達するには、来年の6月ごろになりそうです。 本格的な照射実験は、平成13年には開始できるでしょう。
 これからも、事故や大きなトラブルを起こさないように、慎重に性能試験を行っていきます。

HTTR燃料体炉心配置図

(問い合わせ先:大洗研究所 庶務課 TEL.029-264-8205)


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