核不拡散ニュース No.0067 2007.09.07
<米印協力に関するその後のインド国内情勢について>
米印原子力協力協定に対するインド国内の反対の動きについては、<核不拡散ニュースNo.0065>でお伝えしたところであるが、その後、本件に関するインド国内の委員会設置の動き等が伝えられるところ、その概要を報告する。
インドのムカジー外相は、8月30日に行われたプレスブリーフィングにおいて、米印原子力協力協定案に関して、国民会議派を中心とした連立与党・統一進歩連盟(United Progress Alliance)と左派政党から構成される委員会を設置する旨の声明を発表した。同声明によれば、本委員会は、本協定の一定の側面、米国ヘンリー・ハイド法の本協定への影響、本協定が外交政策や安全保障政策協力に対して与える影響を検討するものとされており、operationalisation(協定の実施に向けた具現化を意味するものと解される。)にあたっては、本委員会の検討結果を考慮に入れるべきこととされている。なお、本委員会の検討スケジュールについては明確にされていない。本委員会は、同協定がインドの核実験や外交政策に制約を加えるものとして、協定を実施することに反対している左派政党の懸念に配慮して設置されたものであるが、左派政党が、operationalisationとは、次のステップである、インドとIAEAとの保障措置協定の交渉を意味するとして、委員会での検討がなされるまでは、協定の交渉開始そのものに反対しているのに対し、連立与党側は、operationalisationとは、協定に従って、燃料や技術の提供がなされる段階であり、委員会の設置が保障措置協定の交渉をストップさせるものではないとして、早くも見解の対立が表面化している。
この委員会が、左派政党へのある種のガス抜きで終わるのか、あるいは、左派政党があくまでも反対を貫くことで、シン政権が窮地に追い込まれるのか注1、先行きが注目される。後者の場合、米印原子力協力協定の実現は難しくなるであろう。
一方、シン首相は8月31日、タラプール原子力発電所注2を訪問し、演説の中で、改めて、経済成長の持続、環境への配慮の観点からの原子力の重要性を述べている。
世界は原子力ルネッサンスという状況にあるとし、インドがそうした国際的な潮流に乗り遅れることはできないことを強調している。また、長期的にはトリウムをベースにした燃料サイクルの開発が必要とする一方、特に当面のウランの不足を補うためには、国際原子力市場へのアクセス可能になることが必要で、米国、ロシア、フランス、日本を含む原子力供給国との協力の重要性を述べている。
注1)国会の議席構成上、閣外協力を行っている左派勢力が連立与党に対する支持を取り下げた場合、現政権は少数派に転落し、政権が危機に陥ることが予想される。
注2)BWR2基、加圧重水炉2基が立地している。
【報告:政策調査室 山村】