核不拡散ニュース No.0065 2007.08.24
<北朝鮮動向:北朝鮮核施設の停止・封印措置に関するIAEA事務局長報告>
9月17日から21日にかけて開催される第51回IAEA総会では北朝鮮の核問題も議題として協議されるが、その資料として、北朝鮮核施設の停止・封印措置についてのIAEA事務局長報告が8月17日に発表されたので、別紙にその概要を記す。特に注目されるのは、停止・封印対象の5つの核施設の一つ、寧辺原子力研究センター内の放射化学研究所(再処理施設)において、2002年以降に設計変更が行われ、二酸化プルトニウムから金属プルトニウムへの転換の作業工程等が導入されていたことが今回新たに確認されたことである。
(情報ソース)
<イラン動向:米国がイスラム革命防衛隊のテロ組織指定を検討>
ワシントンポスト紙は8月14日、米ブッシュ政権がイランのイスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard Corps:IRGC)を「テロ組織」として指定することを決定し、テロ組織指定が大統領令第13224号(Executive Order 13224)に基づいて行われることとなるだろうと報じた。報道を受けて、米下院外交問題委員会のトム・ラントス委員長はテロ組織認定を含めたイランに対するブッシュ政権の政策を支持する旨を表明した。この決定の正式な発表はまだなされていないが、決定に対するイランの反発は必至であり、中東の不安定化に一層の拍車がかかることに対するアラブ諸国の懸念も指摘される。
ミリタリー・バランス(2007年版)によると、イスラム革命防衛隊(IRGC)は約125,000人の兵力を有し、正規軍に続いてイランで2番目に大きな軍事組織であり、独自の陸軍、海軍、空軍を有し、300万人近くを動員できる民兵部隊バスィージ(Basij)を管轄する。IRGCは、正規軍と同様に統合本部(Joint Headquarters)の統制下にあるが、正規軍とは全く独立した組織で、軍事関連企業を含む相当数の企業との関係を持つ他、マスコミ界にも多数のバスィージ人員を有し、軍事的のみならず、経済的・政治的な影響力も強く、アハマディネジャド・イラン大統領の政治的な支持基盤でもある。
既にイランに対しては、国連憲章第7章第41条に基づく二つの国連安保理制裁決議が採択されており、革命防衛隊に関連する個人・団体を含む計27個人23団体のイラン国外における資産凍結が国連加盟国に義務付けられている。しかし、イランのウラン濃縮活動の継続とイラクの反政府活動への支援などを懸念する米国は、大量破壊兵器開発及び拡散の懸念人物・団体による海外渡航や武器取引に対して「警戒し制限する」との表現に留まる安保理の措置に不満を抱いており、IRGCをテロ組織として指定することで制裁の抜け穴を塞ぎ、イランに対する締付けを一層強めたい意向を持つことが窺える。米国は、大統領令第13224号に基づいてIRGCをテロ組織として指定することで、IRGC関連組織への資金移転を効果的に阻止することが可能になり、その結果、イランの軍事力・経済力に一層の打撃を与えることが可能になると見込んでいる。しかし、締付け一辺倒の米国の強硬姿勢に対し、核問題を巡るEUとの対話及びIAEAとの未解決問題解決に向けた行動計画に悪影響を及ぼすことも懸念されている。
8月21日には、IAEAがイランと行動計画で合意に至ったことが発表されたが既に行動計画には不十分な点が多いとの評価を下している米国とイランの今後の動きが注目される。
(情報ソース)
- The International Institute for Strategic Studies,The M ilitary Balance 2007,(Oxford shire, UK.:Routledge Journals,2007).
- Balance2007,(Oxfordshire,UK.:RoutledgeJournals,2007).・米国議会下院外交問題委員会ホームページ、“Lantos Welcomes News that U.S. Plans to Declare Islamic Revolutionary Guardsa Terrorist Group,”プレス8月15日
- ワシントンポスト紙8月14日
- ワシントンポスト紙8月15日
- ワシントンポスト紙8月21日
【報告:政策調査室 濱田】
<米印原子力協力協定に関するその後のインド国内の動き>
米印原子力協力協定のテキストの公表については<核不拡散ニュースNo.0064>でお伝えしたところであるが、本協定の解釈、特にインドが核実験を実施した場合の協力の停止の有無について、米印両政府の国内向けの説明に食い違いが見られる。その後のインドにおける動きを中心に以下の通り報告する。
まず、8月13日にインドの国会で本協定に関するシン首相による演説が行われた。シン首相は演説の中で、協定の主要な内容を説明した上で、協定が、2005年7月の米印共同声明、2006年3月の軍民分離計画に関する合意に沿うものであること、インドの戦略プログラムや三段階からなる研究開発計画の独立性を損なうものではないこと、インドが将来、核実験を実施する権利に何ら影響を与えるものではないこと、戦略的燃料備蓄の確保に関する支援等、インドに対する燃料供給保証に関する措置が含まれていること等を述べるとともに、インドが環境に配慮しつつ、現在の経済成長を維持するためには、民生原子力分野における国際協力が必要であることを述べている。
インド国内、特に、閣外協力を行っている左派政党、野党であるインド人民党(BJP)、原子力省(DAE)及びその傘下の研究開発機関からは、協定が、インドがこれまで実施してきた原子力利用(軍事利用も含め)の独立性に影響を与えることへの懸念が伝えられており、シン首相の演説はこうした懸念を払拭することを狙ったものと考えられる。
しかしながら、シン首相の演説が、左派政党や野党による抗議の中で行われたと伝えられていることから、反対勢力を納得させるという同首相の意図は達成できずに終わったと見ることができる。更に、その後、米国国務省スポークスマンによる、インドが核実験を実施した場合は、インドとの協力は停止されることになるであろうとの発言が伝えられると、左派政党や野党は更に反発を強め、野党による協定の再交渉の要求(下院議長により拒否)、左派政党による反対声明(反対意見が考慮されるまでは、次のステップであるIAEAとの保障措置協定の交渉を開始しないよう警告)の発出(8月20日)等、混迷の度を増している。一方、政府側は、米国との協定が、将来、核実験を実施することに関し、インドの手を縛るものではない旨を述べたムカジー外相の声明の発出(8月16日)、専門家による委員会の場で解決を図るなどの妥協案の提示等の対応策を示しているが、状況は依然、流動的である。
客観的に見て、米国がかなり譲歩した内容になっているにもかかわらず、本協定への反発が強いことを勘案すると、特に左派政党の反対は協定の内容云々よりも、米国との協調そのものへの反対という色彩が強いものと考えられる。インドの国内法システムにおいては、協定に関して国会の承認は必要とされていないが、仮に本協定が原因で、左派政党が現政権に対する支持を取り下げた場合、政権維持自体が困難な状況に陥りかねないことから、慎重な対応を迫られている。
(情報ソース)
- シン首相の国会演説
- 左派政党による声明
- 2007年8月16日
- Times of india 2007年8月17日
- Times of india 2007年8月20日
【報告:政策調査室 山村】
<オーストラリア政府がインドへのウランの輸出を決定>
8月16日、オーストラリア政府は声明を発出し、インドに対し、以下の条件が満たされることを前提に、ウランの輸出を許可することを発表した。
声明で挙げられた条件は、(1)インドとIAEAの間の保障措置協定の妥結、(2)追加議定書の妥結、インドに対してガイドラインの例外を認める旨の(3)原子力供給国による決定、(4)インドと米国の二国間原子力協定の妥結、(5)民生用原子力施設を恒久的にIAEA保障措置下に置くという、インドのコミットメントに関する十分な進展、(6)オーストラリア自身とインド間の原子力協力協定(オーストラリアから輸出されるウランが軍事目的で使用されないことを保証するもの)の妥結である。オーストラリアが従来の政策を転換し、NPT非加盟国のインドとの協力を進める意思を示したものとして注目される。
【報告:政策調査室 濱田】