【研究開発の背景】

東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故では、軽水炉の金属製の燃料被覆管が高温で急速に冷却材(水)と反応して酸化し、水素の発生、爆発によるシビアアクシデントに至った。高温ガス炉は、冷却材にヘリウムガス、炉心構成材に等方性黒鉛を用いた固有安全性に優れた原子炉であるが、このような高温における燃料被覆材の化学反応を抑制し、究極的に安全性を高めることを追求することを目的に、将来の高温ガス炉用の高機能材料開発として、等方性黒鉛に格段に優れた耐酸化性を持たせる基盤研究を進めている。

黒鉛に耐酸化性を持たせるためには表面を炭化ケイ素(SiC)等で被覆して高機能を持たせる手法が有効だが、高温ガス炉の使用条件においてSiC膜のはく離を防止することが課題である。研究においては、東洋炭素株式会社、イビデン株式会社、東海カーボン株式会社、新日本テクノカーボン株式会社がそれぞれ独自の製法で製作した耐酸化SiC膜が、高温・中性子照射環境においても安定なことを明らかにする必要がある。

一方、カザフスタン共和国では、クルチャトフ市に、発電および地域暖房を目的とし、将来的には水素製造をも視野に入れた、原子炉熱出力50MW(5万kW)規模の小型高温ガス炉を建設するカザフスタン高温ガス炉(KHTR)計画(注7)を進めており、原子力部門発展プログラム(2011年(平成23年)6月に政府布告)において、高温ガス炉の建設とそれを用いた発電と地域暖房等が記載されている。

原子力機構では、ISTCのパートナープロジェクトの枠組みを用いて、カザフスタン共和国の核物理研究所が所有するWWR−K炉を用いて、日本製の耐酸化黒鉛について中性子照射試験を行い、早期にデータを取得する計画である。

【研究の内容】

黒鉛に優れた耐酸化性を持たせるため表面をSiCで被覆した黒鉛では、酸化により表面にSiO膜が形成されることで更なる酸化の進行が抑制される(図1)。一方、表面のSiCと基材の黒鉛とでは熱膨張率が異なるため、中間にSiC/Cの傾斜層を導入することにより、高温での熱膨張の差によって生じる応力を緩和し、SiC膜のはく離を防止して健全性を確保することが重要である。東洋炭素株式会社、イビデン株式会社、東海カーボン株式会社、新日本テクノカーボン株式会社のそれぞれが独自の製法で製作した耐酸化SiC膜が、高温において安定なことを明らかにするため、1,000℃以上の高温における耐酸化特性試験を進めている。

一方、耐酸化黒鉛の中性子照射による影響については、ほとんど明らかになっていない。そこで、原子力機構は、平成24年度より、東洋炭素株式会社、イビデン株式会社、東海カーボン株式会社、新日本テクノカーボン株式会社のそれぞれと共同研究契約を締結し、共同で耐酸化黒鉛を開発し、高温における中性子照射特性を調べることとした。そして、平成25年8月1日、ISTCパートナープロジェクトの枠組みのもと、高温での中性子照射試験が可能なカザフスタン共和国の核物理研究所(INP)が所有するWWR−K炉を用いて、日本製の耐酸化黒鉛について中性子照射試験を行う研究契約を締結した。中性子照射試験(照射中のキャプセルに外部からガスを導入可能なガススィープ型キャプセルと照射中にガスの導入を行わない密封型キャプセルを使用)においては、目標照射温度1,200℃とし、ガススィープ型キャプセルでは、照射試験の終了時にはヘリウムガスと酸素の混合ガスを流し、反応ガス成分を分析することで、SiCの酸化反応の進行を確認し、耐酸化黒鉛の健全性を評価する。また、密封型キャプセルでは、照射後試験として、寸法、微細組織、熱拡散率等への照射効果を評価する。

図1 耐酸化黒鉛の表面層と酸化膜の形成

【これまでの実績と今後の予定】

平成24年度より、各黒鉛メーカが製造した耐酸化黒鉛について、中性子照射試験に供する材料を選定するため、個別に高温における耐酸化特性試験等の炉外試験を進めている。

この度、ISTCのパートナープロジェクトの枠組において、原子力機構とカザフスタン共和国核物理研究所は、耐酸化黒鉛開発のための照射試験に関する契約を締結し、今後、平成28年1月末までの計画で、耐酸化黒鉛について、高温ガス炉の炉内の高温・中性子環境下での成立性を評価するための中性子照射データを取得する。


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