補足説明資料

【研究開発の背景と目的】

東京電力福島第一原子力発電所事故により、環境中にセシウムが広範に飛散しました。事故直後から土壌の剥離や凝集剤を用いた手法により多くの放射性物質が除去され、生活環境においては、空間線量を下げることができました。しかしながら、被災地の大半が森林部であり十分な除染がなされていない箇所も多く残されています。これら森林や草木に付着したセシウムは、時間の経過とともに生活用水などに利用されている井戸水や沢水などの水路に混入することが懸念されています。セシウムが水路へ混入する際の形態としては、水に溶けているものと溶けていないものに大別されますが、物理的なろ過で採りきれない極微量で溶存する可溶性のセシウムについては、化学的かつ高効率に捕集する安心な捕集材が求められています。

一方、原子力機構と倉敷繊維加工では、これまで捕集材からの溶出成分が少ない金属除去捕集材の開発に関して共同研究を進め、超純水用フィルターなどの商品化に成功してきました。本件は、この実績をセシウムに対して吸着性能が良好な捕集材の開発に展開した成果であり、井戸水や沢水などを水源としている方々の「水の安心」に寄与できるものと考えています。

【研究の手法】

原子力機構では、これまでに水中に溶けている金属などを効率良く捕集可能な微量金属除去捕集材4)の研究を進めてきました。今回開発したセシウムを除去可能な捕集材は、酸やアルカリに強く、軽量で加工性の良いポリエチレン製の不織布素材に、原子力機構が開発した電子線グラフト重合技術でセシウムと親和性の高いりんモリブデン酸基を導入した捕集材を製作し(図1)、環境中に飛散して、湖沼や井戸水中に溶け込んだセシウムの吸着除去性能評価を行いました。

図1 電子線グラフト重合法によるセシウム捕集材料の合成工程

【得られた成果】

評価に使用した試料水は、平成24年6月から7月のモニタリングにおいて福島県南相馬市内で採水し、80 Bq/kgのセシウムが検出された井戸水を用いました。これを0.45μm径および0.1μm径の市販濾過膜(物理濾過)と市販のアニオンおよびカチオンタイプのイオン交換ろ紙で処理を行った結果、一部のセシウムを除去することはできましたが、56 Bq/kgの可溶性のセシウムが残存しました。そこで、この56 Bq/kgのセシウムが残存した井戸水(以下、試験水という。)に対して開発した捕集材を用いて評価を進めました。

評価では、セシウムとの接触状況が異なるバッチ吸着試験とカラム吸着試験を行い、処理前後のセシウム濃度を測定して吸着・除去性能を行いました。バッチ吸着試験(図2左)では、円形(約φ35 mm、0.18 g)に切り出した吸着材を試験水が入ったポリ瓶に投入し、17時間浸漬撹拌しました。また、カラムを用いた試験(図2右)では、φ9 mmのカラム(注射筒)に吸着材1.3 mLを充填し、注射器を用いて試験水を吸引して吸着材に接触させました。その結果、バッチ吸着試験では、17時間後の試験水中にはセシウムが検出されませんでした。また、カラム吸着試験では、バッチ吸着試験の約4倍量の試験水を通液し、使用した吸着材量はおよそ1/2、接触時間はおよそ1/100であったにもかかわらず、バッチ吸着試験と同等、検出限界値以下まで除去することができたことから、開発したグラフト捕集材は、高効率(短時間)でのセシウムの吸着除去が可能であることを示すことがわかりました。

今後は、学校のプール水の保守などへの適応性評価を進めていきます。

なお、この結果の一部は、平成24年9月11日に内閣府原子力被災者生活支援チームから報告されたプレスリリース内でも紹介されました。

表1 各処理時のセシウム含有量

図2 吸着実験の様子(左:バッチ試験,右:カラム試験


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