用語説明

1) Mo-99(モリブデン-99)
モリブデン(Mo)は、原子番号 42 の元素。銀白色の硬い金属。99Moはβ-崩壊することにより、99mTcとなるため、99mTcの親核種です。現在、医療用のほとんどは原子炉を利用して製造されています。

Mo-99

2) 医療診断用ラジオアイソトープ(RI)
放射性同位元素(RI)で標識した化合物を使用した診断は、患者にほとんど負担を与えることなく高度な情報を与える検査として認められ、全国の中核病院の放射線科あるいは核医学科で日常的に実施されています。放射性医薬品(診断薬)に用いられるRIはすべてγ線放出核種で、γ線の放出は、診断に必要な時間だけでよいため、使用される代表的なRIとしては、半減期が一般に数時間から4日以下と短い、99mTcや123Iが使用されています。
3) Tc-99m(テクネチウム-99m)
地球上では非常にまれな原子番号 43 の元素で、ウラン238の自発核分裂によりウラン鉱などの中で生じますが、生成量は非常に少ないものです。元素記号は Tc。白金に似た外観を持つ銀白色の放射性の金属です。テクネチウムは、安定同位体を持たない元素であり、全ての同位体が放射性同位体です。β線を放出せずγ線のみを放つ99mTcの特性を活かし、各種リガンド(特定の受容体に特異的に結合する物質等)と標識して骨・腎臓・肺・甲状腺・肝臓・脾臓などの臓器を描出するシンチグラフィ(放射性同位元素を利用した画像検査)に用いられています。99mTcで標識された放射性医薬品を投与した場合の体内動態などは充分解明されている上、検査目的に応じた多種の注射剤が供給されています。テクネチウムは、人工放射性元素ですが、核医学という医療の一分野を支える重要な元素であり、一般市民の生活に大きく寄与するものです。
4) 核医学診断
生体機能を反映した画像をPETガンマカメラなどによって、18F、99mTcなど生体の機能及び代謝を反映するγ線放出核種で標識された放射線性医薬品を用いた診断方法です。
18F、99mTcなどの放射線を放出する放射性医薬品を用いて、生体の機能を画像化し、診断を行う検査法です。この検査では、患者の体内に投与された放射性医薬品から発せられる放射線をとらえるために、PETカメラやガンマカメラが用いられています。
5) 材料試験炉(JMTR)
原子炉内において、燃料や材料に中性子を当てる試験を行うことのできる原子炉を材料試験炉と言い、原子力機構大洗研究開発センター内にJMTRがあります。
JMTRの改修は、平成19年度から4年間かけて行いました。改修内容は、原子炉機器等の一部更新と照射設備の整備で、原子炉機器等の一部更新については、原子炉制御系統、制御棒駆動装置、一次冷却系統、二次冷却系統、ボイラー・冷凍機、電源設備、排水設備、炉室給排気系統を更新しています。原子炉施設の一部更新と照射設備の整備の概要を右図に示します。

材料試験炉(JMTR)

6) (n,γ)法
(n,γ)法(中性子放射化法とも呼ぶ)は天然モリブデン中に存在する98Mo(存在比約24%)を原料として、原子炉内で中性子による照射を行い、生成された99Moを利用する方法です。核分裂法に比べ99Moの比放射能量は低いが、安価で放射性廃棄物の発生が少ない等のメリットがあります。
7) 三酸化モリブデン(MoO3
モリブデンは一般に採掘したモリブデン鉱石の浮遊選鉱(粉砕した鉱石を、油や起泡剤を加えた水に入れてかきまぜ、鉱物粒子を気泡に付着させて分離・回収する方法)を行い、硫化モリブデン精鉱とします。さらにこの精鉱を焙焼し、脱硫して、三酸化モリブデン(MoO3:天然存在比約24%、98Mo)として出荷されます。現在、大量に輸入されている三酸化モリブデンは、主に鉄鋼添加用途であるため、MoO3純度は95%程度である。その他、触媒や電子部品用の三酸化モリブデンは、更に化学精製することにより高純度化したものが使用されています。この三酸化モリブデン粉末を焼き固め、ペレットとした上でJMTRにおいて中性子による照射を行い、99Moを製造します。
8) バインダー
粉末を形成・焼結を容易にするために用いる結合剤を言います。結合剤としては、加熱時に除去しやすい物質を選定します。セラミックスなど添加する結合剤は、樟脳、ポリビニルアルコールなどです。
9) プラズマ焼結法
プラズマ焼結法は、直流パルス通電法を用いた加圧焼結法の一つです。この焼結法は、従来の焼結法に比べ、焼結エネルギー制御性の良さ、取り扱い操作の容易さ、ハイスピード焼結、高い再現性、安全性、確実性、省スペース、省エネルギー、設備コスト等の点で優れた特徴を有しています。また、プラズマ放電による直接発熱方式のため極めて熱効率に優れ、その放電点の分散による均等加熱で、均質高品位の焼結体が容易に得られることも特徴の一つです。
10) ライフイノベーション
人口減少、超高齢社会を迎える日本で、次世代の基幹産業として医療や健康に関連した医薬品、医療機器などの開発が期待されており、政府の成長戦略として医療・介護・健康分野における科学・技術による課題解決、イノベーション(技術革新)を実現し、国民生活の質の向上、産業・経済の中長期的な発展、成長を目指すことを言います。
11) 核分裂法
主な99Moの製造方法としては、核分裂法と(n,γ)法(放射化法)があります。核分裂法はウラン-235を原料にして、原子炉内で核分裂を起こさせ、その結果、生成された多くの核分裂生成物(FP)中から99Moを抽出する方法です。ウラン-235からの99Moの生成率(核分裂収率)は約7%です。現在、世界の主流は核分裂法です。
12) GTRI(地球的規模脅威削減イニシアティブ) Global Threat Reduction Initiative
2004年5月、エイブラハム米エネルギー長官が米国や旧ソ連より各国に対して研究炉用の燃料として提供された高濃縮ウランがテロリストの手に渡ることを防ぐため、米露起源の高濃縮ウラン燃料等の米露への返還を中心に、国際社会の脅威となり得る核物質及び放射性物質を削減するための包括的な構想として、地球的規模脅威削減イニシアティブ(GTRI)を提唱しました。2004年9月18日〜19日に米露両政府共催によりウィーンで開催されたパートナー会合において、米国より、本件イニシアティブの目的として以下が挙げられました。

(1)全ての露起源未使用高濃縮ウランの来年までの返還、及び全ての露起源使用済燃料の2010年までの返還。

(2)全ての米起源の研究炉使用済燃料の10年以内の返還作業の加速化(12月に米エネルギー省は、返還期限を2009年から2019年に延長する旨発表。)。

(3)全ての国における民生用研究炉用燃料の高濃縮型から低濃縮型への転換。

(4)既存の脅威削減対象に含まれない核・放射性物質及び関連機材の特定。

なお、GTRIの提唱により、これまでのRERTR(研究炉燃料低濃縮化計画)に係る活動及び米国による使用済燃料受入れはGTRIの下で推進されることになりました。
(参考:外務省HP http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/gtri.html
13) Ci(キューリー)
Ci(キューリー)は、1 gのラジウムが持つ放射能量で、放射能の古い単位です。現在、国際単位系では、放射能の単位にはベクレル(Bq)を用いる。1Ciは厳密に3.7×1010ベクレル(370億ベクレル)に等しい量です。
14) RERTR(研究炉燃料低濃縮化計画)
1977年の米国の核不拡散強化政策発表後、濃縮ウランを米国から全面的に供給されているわが国としては、その安定確保と国の核不拡散政策に従うとの立場から、研究炉・試験炉燃料のウラン濃縮度低減化に取り組むこととし、1978年より原子炉ごとに検討を開始しました。RERTRとは、Reduced Enrichment for Research and Test Reactorsの頭文字を取った略称で、研究炉燃料低濃縮化計画を指します。
高濃縮ウランを使用している研究炉・試験炉の燃料要素の設計を大幅に変更せず、すなわち研究炉の性能を変えず、低濃縮ウラン(ウラン-235の濃縮度20%未満)に切り換えるには、燃料芯材中のウラン含有量の高密度化に懸っています。このため、従来のU-Al合金燃料(最高ウラン密度0.75g/cm3)に代わって、アルミナイド(UAlx、最高ウラン密度2.3g/cm3)およびシリサイド(U3Si2、最高ウラン密度4.8g/cm3)をアルミニウム中に均一分散させた燃料の開発が進められました。その結果、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の研究炉・試験炉(JRR-2,-3,-4およびJMTR)は、これらの燃料を使用し、従来の炉心とほぼ同等の性能を持つ炉心へ変更することができました。
しかし、シリサイド燃料の再処理が困難なことが明らかになり、燃料サイクルを完結するために、再処理が可能なU-Mo合金分散型燃料の製造技術開発が必要となってきています。
15) 理論密度
「構成物質間の相互作用は考えず、単に算術的に平均した密度」として取扱う密度のことです。

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