用語説明

1) 錯体
金属イオンに配位子(ligand)と呼ばれる分子やイオンが結合したものの総称。錯イオンも錯体と同じく金属イオンに配位子が結合したものですが,その名の通りそれ自身がイオンであるため +又は−の電気を帯びています。しかし金属は通常陽イオンであり,陰イオンの配位子が結合すると電荷が打ち消しあって中性になるときがあります。この場合はイオンとは呼べないので,このような中性のものも含めて錯体と呼びます。
2) 希土類元素、ランタノイド
ランタン57Laからルテチウム71Luまでの15の元素群をランタノイドと呼び、これら15元素にスカンジウム21Scとイットリウム39Yを加えた計17元素のグループを希土類元素と呼びます。本研究で焦点を当てているセリウムCeは希土類元素の中の一つであり、強力な酸化剤として、有機合成を始めとした様々な化学工業分野で幅広く利用されています。
3) X線吸収分光(法)
試料に放射光施設等で発生したX線を照射し、試料がX線を吸収する度合い(吸収係数)、又は試料がX線を吸収した結果に発生する蛍光X線の強度を測定する事で、試料中に含まれる元素の化学状態(酸化数や錯体構造)を解析する手法です。この手法は、原理上全ての元素に適用可能であり、さらに様々な試料形態での測定が可能なため、物理・化学・生物学の様々な分野において、基礎から応用研究まで幅広く利用されています。
4) 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の放射光を生み出す独立行政法人理化学研究所の施設で、その管理運営は高輝度光科学研究センターが行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来しています。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、強力な電磁波のことです。SPring-8では、この放射光を用いて、基礎研究から産業利用まで幅広い研究が行われています。
5) オキソ基
金属イオン等に酸素が“=O2-”の状態で結合している酸素基の呼称。本研究で見られるような架橋構造中のオキソ基の他に、モリブデン酸イオンMoO42-や二クロム酸イオンCr2O72-といったオキソアニオン中にも見られます。
6) 水酸基
金属イオン等に“-OH-”の状態で結合している官能基の呼称。ヒドロキシ基やヒドロキシル基とも呼ばれます。水溶液中では、水分子の加水分解に伴い水酸化物イオン(OH-)が発生しますので、水溶液系では頻繁に観察される配位子の一つです。
7) 密度汎関数法
原子や分子といった多体電子系における電子状態の研究に適用される量子力学理論の一つである密度汎関数理論(Density Functional Theory: DFT)を用いて、原子・分子の電子状態や化学構造を計算する手法。本研究では、Ce(IV)が水溶液中で形成し得る二核・三核錯体の化学構造を推測する際に用いました。
8) 動径構造関数
対象元素(本研究ではセリウム)の原子核を原点とし、そこからどのくらいの距離に周辺原子がどの程度の確率で存在しているかを示す図です。図1においては、横軸原点(x = 0)がセリウム原子核の中心に対応し、そこからどのくらいの距離(横軸)に周辺原子(当該図では酸素原子や近接セリウム原子)がどの程度の存在比(縦軸)で配置されているかを示しています。
9) 時間分解測定
同じ測定対象の時間変化(例えば化学変化など)に伴う構造、電子状態、運動状態の変化を追跡する測定法。特にここでは、一定間隔でX線吸収分光(XAFS)スペクトルの測定を行うことを指す。放射光の白色光を使う分散型の測定法(DXAFS)は、ミリ秒から秒オーダーの時間分解測定が、一方モノクロメータを高速に動かすことによりエネルギー取り出す測定法(QXAFS)は、数分オーダーの時分割測定によりXAFSスペクトルの測定が可能です。

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