独立行政法人日本原子力研究開発機構/ヘルムホルツ研究センター・ドレスデン-ロッセンドルフ

平成24年5月18日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
ヘルムホルツ研究センター・ドレスデン-ロッセンドルフ

水溶液中で安定な四価セリウムの二核錯体を発見
−水分子から水素・酸素を生成する触媒反応の機構解明等に貢献−
(お知らせ)

【発表のポイント】

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 鈴木篤之。以下「原子力機構」という。)の研究グループは、ヘルムホルツ研究センター・ドレスデン-ロッセンドルフ(ドイツ)と共同で、水溶液中における四価セリウム(Ce(IV))の溶存錯体注1の化学構造を解明しました。

希土類元素注2の一つであるセリウムは、希土類元素の中で唯一、溶液中において三価と四価の二つの酸化状態を安定的に取る元素として知られています。水溶液中におけるCe(IV)→Ce(III)還元反応に関する還元電位は約1.6 - 1.7 Vと非常に大きく、このため、Ce(IV)の水溶液は強力な酸化試薬として、有機合成を始めとした様々な分野において必要不可欠なものとなっています。又、近年では、水分子から水素・酸素ガスを生成する触媒反応の研究において、金属触媒を活性化させるための強力な酸化剤としてもCe(IV)水溶液は多用されています。このように、化学試薬として非常に有用なCe(IV)水溶液ですが、Ce(IV)がどのような化学状態で水溶液中に存在しているかについての知見はこれまで殆ど無く、従って、Ce(IV)水溶液が関係する酸化・還元反応における反応機構については多くが未解明のままでした。

今回、研究グループは、代表的なCe(IV)水溶液としてCe(IV)の過塩素酸(HClO4)水溶液を電気化学的に調整し、当該試料溶液を用いたX線吸収分光注3実験を、大型放射光施設SPring-8注4内のJAEA量子ダイナミクスビームラインBL11XUにおいて実施しました。その結果、Ce(IV)は、金属イオンが通常形成するような単核水和錯体では無く、オキソ基注5又は水酸基注6によって架橋された特異な二核錯体として溶存していることを見出しました。更に、X線吸収分光実験で得られた結果を密度汎関数法(Density Functional Theory: DFT)注7を用いる計算と組み合わせる事により、Ce(IV)二核錯体の詳細な錯体構造を世界で初めて明らかにしました。

これまで、Ce(IV)の溶存状態は単核錯体と考えられており、Ce(IV)水溶液によって引き起こされる種々の酸化反応は、単核Ce(IV)錯体の酸化作用に起因するものとされていました。今回の研究成果によって、Ce(IV)は水溶液中において二核錯体で安定的に溶存していることが示され、またオキソ基/水酸基による架橋構造部位は化学的に活性であることも示唆されました。この結果は、Ce(IV)水溶液の酸化剤としての化学活性は、これまで理解されてきた単純なCe(IV)→Ce(III)に伴う一電子反応に伴う現象のみならず、溶液に存在するCe-Oが自ら酸素を生み出す可能性も示唆され、水の酸化触媒反応が、二核錯体中のオキソ基の活性にも由来し得ることがわかりました。この事は、水分子の分解反応を始めとした、Ce(IV)水溶液が関係する様々な化学反応の反応機構を理解する上での基本的な知見であり、貴金属触媒を用いる酸素発生反応で、触媒の劣化がほとんど無く、繰り返し使用が可能な、燃料電池の燃料発生源となる化学反応の開発に重要な役割を果たすことが期待されています。

この研究成果は、原子力機構池田篤史博士研究員(現、ヘルムホルツ研究センター・ドレスデン-ロッセンドルフ(ドイツ)博士研究員)、矢板毅研究主幹、ヘルムホルツ研究センター・ドレスデン-ロッセンドルフ 津島悟研究員、Christoph Hennig上級研究員、Gert Bernhard教授の共同研究によるもので、放射光X線分光実験はSPring-8 BL11XUのJAEA専用ビームライン利用研究課題として行われました。

本研究成果は、3月8日に英国化学会の論文誌Dalton Transactionsにcommunication論文としてオンライン掲載され、当該論文が掲載される号の表紙でも紹介される予定です。又、同英国化学会の一般化学情報誌 Chemistry World(電子版)において注目研究として取り上げられました。1
 1 http://www.rsc.org/chemistryworld/News/2012/March/tetravalent-cerium-dimer-in-solution.asp

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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