【背景と経緯】

包括的核実験禁止条約(CTBT)1)に係る国際監視制度2)の一環として、地球規模での放射性希ガス(キセノン)観測ネットワークに係わる実験(INGE:International Noble Gas Experiment)が行われています。CTBTにおいて規定されている希ガス観測所は世界40か所ですが、近年の研究により、さらに多くの希ガス観測所が必要との認識が専門家間で共有されつつあります。欧州共同体では世界の複数地点でCTBT観測ネットワークを補完する形で希ガス観測を開始しており、東アジア地域においても、希ガス観測ネットワークの強化が必要と考えられています。国内ではINGEの一環として高崎において希ガス観測を実施していますが、これまでの観測結果から大気中の希ガス挙動については未知な点が多くあることが判ってきました。放射性希ガスは、地下核爆発実験の検知/同定3)に重要な役割を果たしますが、一方では、世界中に放射性希ガスの放出源となる医療用放射性同位体製造施設や原子炉が多数あり、これら民生用放出源と核爆発実験を識別するために、通常のバックグラウンド挙動の把握が重要となります。本観測実験では、大気輸送モデルによるシミュレーション及び現地調査により得られた情報に基づき選定した青森県むつ市において高感度の放射性希ガス観測を行い、得られたデータを解析評価することにより、日本及びその周辺の希ガス挙動に関する情報を取得することを目的としています。

【観測実験の内容】

原子力機構青森研究開発センターむつ事務所大湊施設に移動型希ガス観測装置(TXL: Transportable Xenon Laboratory)4)を設置し、大気中の放射性キセノン(Xe-131m、Xe-133m、Xe-133、Xe-135)の観測を行います。TXLは、大気捕集→キセノンの精製分離→計測→データ送信といった一連の動作を全自動で行い、得られたデータは研究協力機関で共有され解析評価されます。観測期間は当面6か月とし、関係機関の合意に基づき延長または短縮を行うこととなっています。

【今後の展開】

本観測実験により、東アジア地域における放射性キセノンバックグラウンドについて、より理解が深まれば、核爆発、特に地下核爆発実験をより正確に検証する手段を得ることができます。核爆発とその他の民生用放出源からの放射性キセノンとを識別する分類スキーム、核爆発と間違えないように民生用放出源の位置特定を可能にする技術など、CTBT機関準備委員会5)を始めとする放射性キセノン監視コミュニティへのより科学的な情報提供を行うことができ、信頼性の高い国際検証体制の確立に貢献できます。当部では、こうした科学的取組みにより、国際的な核不拡散体制の構築に貢献しています。

CTBT放射性核種監視観測所網/国内の放射性核種監視観測所


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