【用語説明】

1) イーター(国際熱核融合実験炉: ITER)
制御された核融合プラズマの維持と長時間燃焼によって核融合の科学的及び技術的実現性を実証することを目指したトカマク型(超高温プラズマの磁場閉じ込め方式の一つ)の核融合実験炉。1988年に日本・米国・欧州・ロシアが共同設計を開始し、2005年にフランスのカダラッシュに建設することが決定した。2007年に国際機関「ITER国際核融合エネルギー機構(ITER機構)」が発足し、日本、欧州連合、ロシア、米国、中国、韓国、インドの7極が参加している。現在、イーターが格納される建家の基礎工事を行っているところで、各極が調達する、イーターを構成する様々な機器の調達取り決めが、順次締結されている段階である。2020年からのプラズマ実験の開始を目指している。イーターでは、重水素と三重水素を燃料とする本格的な核融合による燃焼が行われ、核融合出力500MW、エネルギー増倍率10を目標としている。
 ITER計画に関するホームページ http://www.naka.jaea.go.jp/ITER/index.html (日本語)
 ITER機構のホームページ http://www.iter.org/default.aspx (英語)
2) レーザー装置
特定の色の光を増幅して放射する装置。今回開発したレーザー装置は、光のエネルギーを蓄える結晶(レーザー結晶)としてYAGを用いており、YAGレーザーと呼ばれる。YAGとはイットリウム・アルミニウム・ガーネット(Yttrium Aluminum Garnet)の略で、人工宝石として用いられる他、工業的な用途にも使われる。レーザー装置には、ネオジムという金属が微量添加された、淡い紫色がかった透明な結晶が使われる。
3) プラズマ
核融合反応を起こすためには、燃料(重水素と三重水素)を1億度以上に加熱する必要があり、そのような超高温状態では、気体を構成する原子が完全に電離し、陽イオンと電子に別れて自由に運動する状態となる。このような状態をプラズマという。プラズマは、物質の三態、すなわち固体、液体、気体とは異なった、物質の第四の状態といわれる。
4) 周辺トムソン散乱計測装置
イーターで生成される核融合プラズマの周辺部の電子温度分布、電子密度分布を計測する装置。イーター計画において日本が開発を担当することになっており、原子力機構が開発を進めている。今後、ITER機構と調達取決めを締結し、詳細設計と製作に移行する。ここで、トムソン散乱計測とは、強力なパルス状のレーザー光をプラズマに入射し、プラズマ中の電子から散乱される光を分析することによって、電子温度と電子密度を測定する計測手法。
5) レーザー増幅器
レーザー増幅器は、光のエネルギーを蓄えるレーザー結晶、それにエネルギーを与えるフラッシュランプ、フラッシュランプの光をレーザー結晶に集光する反射鏡で構成される。エネルギーが蓄えられたレーザー結晶にレーザー光を通すと、レーザー光の強度が数倍以上に増幅される。
6) サマリウム
希土類元素の一つで銀白色の軟らかい金属。主な用途として、強力な磁石を作る原料として用いられる。
7) 臨界プラズマ試験装置JT-60
日本原子力研究開発機構のトカマク型核融合装置。JT-60では、核融合炉の炉心プラズマの実現を目指して、超高温プラズマの発生やそれを定常的に維持する研究開発を行った。また、イーターの建設・運転に必要な炉心プラズマ技術の研究開発、原型炉に向けた研究開発、そして超高温プラズマの物理の解明に関する研究開発を行い、世界の核融合研究開発を牽引した。2008年に運転を終了し、現在、超伝導コイルを用いた装置(JT-60SA)に改造中。
8) 励起
レーザー結晶中の原子は、通常はエネルギーの最も低い基底状態にあるが、フラッシュランプ等の強力な光源で照らされると、特定の光を吸収しエネルギーを受けとって、より高エネルギーの状態に移行し、光のエネルギーを蓄える。このような現象を励起という。
9) 自然放射増幅光
自然放出とは、フラッシュランプ等により高いエネルギーを与えられて励起状態になったレーザー結晶内の原子が、エネルギーを光として放出し、もとの基底状態に戻ること。高出力増幅器の場合、自然放出による光のうち、増幅度の高い中心波長成分がより強く増幅され、スペクトル幅が狭い光が放出される。これを自然放出増幅光(ASE: Amplified Spontaneous Emission)という。
10) 小信号利得
増幅器に入射するレーザー光(被増幅光)の強度が十分に小さいときの、増幅器の増幅率。
11) 位相共役鏡
非線形媒質中で誘起される現象(誘導ブリルアン散乱)により、入射電界の全空間位相を瞬時に反転し、共役波面を発生することができる光学素子。位相共役鏡で光を反射させると、通常の鏡のようにスネルの法則に従わず、ビデオテープを逆再生するように、反射光は入射光と全く同じ経路を自動的にたどる。
12) 飽和増幅
レーザーロッドに蓄えられるエネルギーは、有限であるため、被増幅光の強度が大きくなると、増幅率が減少する効果。増幅率が飽和する領域で、強い被増幅光を増幅器へ通すと、増幅器に蓄積された光エネルギーをレーザーエネルギーとしてほとんど引き出すことができる。

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