独立行政法人 日本原子力研究開発機構

平成23年9月15日
独立行政法人 日本原子力研究開発機構

超伝導に関与する電子の異常な磁気の揺らぎを観測
−磁気の揺らぎにもとづく超伝導メカニズムの解明に大きな一歩−

【発表のポイント】

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 鈴木 篤之)先端基礎研究センターの酒井宏典研究副主幹は、米国ロスアラモス国立研究所のJ. D. Thompson博士らのグループとともに、従来の超伝導理論では説明できない新奇な超伝導1) を引き起こすと考えられている電子の磁気的揺らぎを、初めて極低温まで観測しました。

物性物理学の最重要課題の一つに、高温超伝導のメカニズムを解明することが挙げられます。アルミニウムや鉛などの普通の金属が超伝導状態になるときには、結晶の原子振動が仲介となって、電子がペア(超伝導電子ペア)をつくります。一方、現在最高の超伝導転移温度を示す物質である銅酸化物高温超伝導体2) は、磁気揺らぎによって超伝導電子ペアをつくると考えられています。この物質では、温度による電気抵抗の変化が普通の金属とは異なる金属状態から超伝導状態になるため、この異常な金属状態の起源を明らかにすることは高温超伝導のメカニズム解明に不可欠と考えられてきました。しかし、銅酸化物高温超伝導体では、実験に極低温で非常に高い磁場を必要とするため容易に行えず、そのメカニズムは不明なままでした。

今回、酒井研究副主幹らは、新奇な超伝導体のひとつであるCeCoIn53) にも銅酸化物高温超伝導体と同様の異常な金属状態が現れ、かつその現象を、実験室で容易に発生できる磁場で作りだすことができる点に着目し、実験を行いました。実験では、超伝導状態になる直前のCeCoIn5の電子状態を、医療分野で応用されている磁気共鳴画像診断(MRI)と同じ技術である核磁気共鳴(NMR)法4) を用いて極低温まで調べました。その結果、超伝導電子ペアになる直前の異常な金属状態では、隣り合う電子は磁気的に向きを揃えようと大きく揺らいでいることを直接観測しました。また、その際に現れる電気抵抗などの異常な金属状態の振る舞いも、この大きな磁気的揺らぎによって、うまく説明できることがわかりました。

今回の実験で明らかになった強い磁気的揺らぎの特異性は、銅酸化物高温超伝導体の異常金属状態にも共通するものと考えられ、高温超伝導の普遍的な物性理論構築に貢献し、新しい高温超伝導体開発に繋がるものと期待されます。

本研究成果は、米国物理学会誌「Physical Review Letters(フィジカルレビューレターズ)」オンライン版(9月19日現地時間)に掲載されます。

以上

参考部門・拠点:先端基礎研究センター

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