【用語解説】

注1) 新奇超伝導体
従来の超伝導理論では理解できない超伝導体の総称。高温超伝導体や「重い電子」系超伝導体が含まれる。新奇超伝導体では、超伝導電子ペアの形が、従来型の球形ではなく、空間的に異方的になって節をもっている (図1)。
注2)銅酸化物高温超伝導体
1986年にスイスIBM研究所のベドノルツとミュラーがLa-Ba-Cu-Oを含む銅酸化物が約35 Kで超伝導体になることを報告したことが発端となって、同様の結晶構造を有する銅酸化物が高温超伝導を示すことが明らかとなり、超伝導体開発が最も系統的に行われた化合物群。ベドノルツとミュラーは、この発見でノーベル物理学賞を受賞している。現在、水銀系銅酸化物において高圧下で160 Kが転移温度の最高記録である。銅と酸素が正方形状に配列したCu2O面を有する2次元的な結晶構造が特徴。
注3) CeCoIn5
CeCoIn5は、「重い電子」系超伝導体のひとつである。2001年に米国ロスアラモス国立研究所の研究グループが2.3 Kという温度で起こることを報告した。この超伝導転移温度は、Ceを含む「重い電子」系化合物中で最高の転移温度として注目された。また、同じ結晶構造をもつCeIrIn5で0.4 K、CeRhIn5という物質においても圧力下で2.1 Kという超伝導が見出されている。
注4) 核磁気共鳴(NMR)法
医療の分野で、人体断層診断に用いられるMRI(磁気共鳴イメージング)法と同じ原理を用いて、原子核位置におけるミクロな磁気情報を得るための実験手段。電子がスピンを持つように、スピンをもつ原子核が自然に存在する。核スピンの大きさは、電子スピンの大きさの1000分の1程度しかなく非常に小さいため、電子スピンは、核スピンの影響をほとんど受けずに運動している。一方、核スピンの回転は、周りの電子スピンの影響を強く受けており、核スピンの回転を精密に測定すると、電子スピンの運動に関する情報を直接得ることができる。具体的には、核スピンの回転周波数と同じFMラジオ波を試料に与えて、そのエネルギー共鳴・吸収を測定する。
注5) f電子
原子は、原子核と電子によって構成され、電子がいくつ原子核の周りを回っているかで元素は分別される。各々の電子が回る軌道は、その形状からs, p, d, f と区別される。最も原子核から遠い位置の電子(最外殻電子)がどの軌道に入っているかで元素周期表は作られており、元素の性質を特徴づける。Ce元素は、ランタノイド系列と呼ばれる周期表の下から2行目に位置し、f軌道をもつ電子(f電子)が活躍する元素である。f電子の軌道の大きさを区別するため、ランタノイド系列のf電子を4f電子と呼び、周期表最下段に位置するアクチノイド系列の最外殻f電子を5f電子と呼ぶ。
注6) 電子スピン
電子が回転運動をすることで生じる磁気的性質で、量子力学的な重要な自由度の1つである。電子の自転により生じる磁場と、電子が原子核の周りを公転することによって生じる磁場とが合成されて、あたかも微小な磁石が原子の位置にあるように考えることができる。強磁性秩序とは、この微小な磁石が同じ向きに整列することをいい、反強磁性秩序とは、原子毎に反対向きに整列することをいう。

【論文名・著者名】

“Magnetic-field-induced enhancement of nuclear spin-lattice relaxation rates in the heavy-fermion superconductor CeCoIn5 using 59Co nuclear magnetic resonance”(重い電子系超伝導体CeCoIn5における磁場誘起した59Co核の核磁気共鳴核スピン緩和率の増大)

H. Sakai, S. E. Brown, S.-H. Baek, F. Ronning, E. D. Bauer, and J. D. Thompson


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