研究背景

核融合炉発電の最重要機器の一つであるブランケットは、炉心プラズマで発生する高エネルギー中性子2)を用いて熱の取り出しや燃料3)となるトリチウム4)を製造する機器で、ITER5)運転のための機器とは異なり、我が国を含むITER参加各極6)が技術開発競争を展開しています。

核融合炉の燃料であるトリチウムガスは、核融合反応で発生する高エネルギー中性子をブランケットの中に入れたリチウム材料に照射することによって製造します。高エネルギー中性子とリチウム材料の反応でできたトリチウムガスは、ブランケットの中を流れる他のガスとともに核融合炉の外に導かれ、そこで回収精製されて再び燃料として炉心に供給されます。ブランケットの設計では、高エネルギー中性子でトリチウムガスを効率よく生成して外に取り出すことができるかが鍵となりますが、これまでは高エネルギー中性子を発生することができる設備が限られること、そのような施設で最高900度に達するブランケット内のリチウム材料環境を模擬することができなかったことなどの理由で、高エネルギー中性子を用いたブランケットの照射実験は行われていませんでした。

研究の成果

原子力機構では、核融合反応で発生する中性子と同じ高エネルギー中性子を発生できるFNSを用いて、新たにヒータ-と断熱材の配置を工夫して開発した1,000℃まで試料を加熱制御することのできるブランケットを模擬した容器に、実際の核融合炉のブランケットで使用するのと同じリチウム材料を充填し、高エネルギー中性子を照射しました。照射した模擬容器の中のリチウム材料を加熱しながらガスを流して、生成されたトリチウムガスを容器の外に取り出し、その回収量を測定した結果、ほぼ100%の回収を確認することができました。このように、核融合炉と同じ高エネルギー中性子を用いて、トリチウム回収性能を実証したのは、世界で初めての成果であり、核融合炉の燃料となるトリチウムガスを核融合炉で生産し、供給する自己供給技術の確立に向けて大きな一歩を踏み出しました。さらに、このような照射技術や回収技術は、材料中のリチウム定量分析や医療用ラジオアイソトープなどを効率的に回収する技術への応用も期待されます。


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