平成22年3月23日
独立行政法人日本原子力研究開発機構

世界最高解像度の高エネルギーX線CT検査装置の開発に成功
−原子炉燃料以外の工業製品の品質向上にも利用可能−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄:以下「原子力機構」)は、原子炉で使用した燃料集合体内部の健全性確認を非破壊で行える高エネルギーX線CT(Computed Tomography)検査装置(以下「X線CT検査装置」)の高解像度化に成功しました。これまで、燃焼により変化した燃料ペレットの状況の観察には破壊試験が必要でしたが、本装置によって燃料集合体形状のまま短時間で観察することが可能となりました。本装置は、原子炉燃料のみならず詳細な内部観察が必要とされる高密度・厚物の構造物の非破壊検査への適用も期待されます。

原子力機構大洗研究開発センターの照射燃料集合体試験施設には、燃料集合体内に装填されている燃料要素の配置状況を把握するために開発した高エネルギーX線CT検査装置(図1)が平成11年6月から稼働しています。本装置は、最大12MVの高エネルギーX線とパルス状X線検出システムの導入により、燃料集合体からの放射線の影響を低減するなどの革新的な技術を採用したものです。今回の開発では、この既存の装置に、燃料要素内の燃料ペレットの状況をさらに詳細に観察するために高解像度X線CT検査技術を適用し、高解像度化を実現しました。開発にあたっては、X線の検出器をX線源に対し扇状に100個配置して、従来の3倍以上に増やしました。また、X線を絞り込み画像性能を確保するために検出器の前にはスリットつきのタングステン製コリメータを設置していましたが、このスリット幅を従来の3分の1となる0.1mmで加工する技術を確立し、100本設けることに成功しました。これらにより、CT画像の1画素の大きさを0.1 mm角にまで微細化でき、図2に示すように非常に小さな空孔や空隙の存在といった燃料要素の内部状況を鮮明な画像で観察することが可能となりました。今回開発した技術で高速実験炉「常陽」で使用された燃料集合体を観察した結果、燃料要素の内部状況、具体的には発熱によって生ずる燃料ペレット内のクラックの存在や中心空孔の大きさまで確認できました(図3)。本技術を利用すれば、それらを覆っている燃料集合体を解体し、表面を研磨して顕微鏡を用いた観察をするなどの破壊試験を行うことなく、短時間で膨大な量のデータを取得できることから、照射挙動の解明に大いに貢献するとともに、高速増殖炉燃料の開発に寄与することができると期待されます。

今回開発した装置は、鉄換算厚さ約20cm程度の構造物を高精度で内部観察できる能力を有していることから、一般の工業製品(例えば、鋳物製品や電気自動車用のリチウムイオン電池など)の非破壊検査に利用することにより、その品質向上に貢献することも期待されます。

なお、本開発は特別会計に関する法律(エネルギー対策特別会計)に基づく文部科学省からの受託事業として、平成21年度に原子力機構が実施した「高解像度X線CTによる燃料棒、燃料集合体の照射挙動の究明」の成果です。

以上

参考部門・拠点:大洗研究開発センター

戻る