補足説明2 <ITER NBIと高電圧ブッシングについて>

図3にITER NBIの鳥瞰図を示します。核融合プラズマの閉じこめ容器に直結した約15 mの容器の中に、負イオン源、加速器、中性化セルなどが設置されます。この容器内は真空に保たれます。(厳密には、負イオンを生成するためのガスにより、0.001〜0.03パスカル(Pa)程度の圧力になります。)通常、加速器周囲には絶縁ガスを充満させ高電圧を安定に保持する手法を用います。しかし、核融合炉の場合、核融合反応の結果中性子やガンマ線といった放射線が発生し、これらはNBIの容器内に容易に流入します。絶縁ガスは放射線の影響により電離(ガス分子がイオンと電子に分離した状態になること)され、ガス中に電流が流れてしまい(これを放射線誘起伝導という)、絶縁ガスの発熱といった問題が生じます。このため、ITER NBIでは加速器を真空中に設置し、直流100万ボルトを真空中で絶縁しなくてはなりません。 一方、負イオン源及び加速器に負イオン生成用電力や100万ボルトの高電圧を供給する高圧電源の伝送系は、設備をコンパクトにするため絶縁ガス中に設けられます。従って、絶縁ガス中から負イオン源・加速器に電力及び冷却水を供給する導体を取り出し、互いに絶縁しながら真空中に導入する「高電圧ブッシング」が必要になります。

図3 ITER NBIの鳥瞰図

ITER NBIの加速器は5枚の金属製加速電極を用いる5段構造です。これに対応して高電圧ブッシングも5段構造です。高電圧ブッシングの断面図を図4に示します。高電圧ブッシングは、絶縁体を二重に配置した構造であり、内側の絶縁体が外径1.56 mの大口径セラミックリング、外側が繊維強化プラスチックリング(FRP)です。これらを5段重ねにしてセラミックリング内部を真空にし、ここを負イオン源・加速器に電力及び冷却水を供給する導体が貫通します。高圧電源の伝送系と直結するFRPリングの外側には、6気圧の絶縁ガス(SF6,六フッ化硫黄)を充填します。この絶縁ガスが真空中に漏れこまないように、セラミックリングとFRPリング間の中間層には最高10気圧の高圧空気が充填されます。この高電圧ブッシングには1段あたり20万ボルト、5段で100万ボルトを真空中で絶縁する性能が求められます。

図4 高電圧ブッシングの断面図


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