【補足説明】

普通ポルトランドセメント(OPC)を用いたコンクリート材料は、これまでに一般建造物や土木工事などに用いられており、多くの施工実績があります。これらの建設物は数十年から百年程度の寿命を想定して建設されています。地層処分においては、処分場の操業期間を考慮して、力学的には一般建造物等と同程度の寿命を想定していますが、処分場閉鎖後も材料が残置されるため、長期的な安全評価においては、OPCによってもたらされる地下水の高アルカリ化およびその化学的影響について評価する必要があります。OPCとの反応により生じるpH12.5以上の高アルカリ性地下水が緩衝材や岩盤に接触すると、それらを徐々に溶解させると共に二次鉱物を生成させ、変質に伴って新たに水みちが形成されるなどの影響が安全評価上懸念されています。このような安全評価上の不確実性を低減させるため、スイス、フィンランド、スウェーデン等ヨーロッパ諸国においても、低アルカリ性セメントの開発が精力的に進められています。

OPCが接触する地下水のpHを上昇させる原因は、セメント材料が水和・硬化するときに生成するセメント水和物(水酸化カルシウム(Ca(OH)2:略記CH))などから陽イオン(主にCa2+イオンが中心だが、反応初期にはNa+,K+も放出される)や水酸化物イオン(OH-)を水中に放出するためです。

原子力機構では、pHを低下させる方法として、放出されたこれらイオンを取り込み、安定なC-S-H(カルシウムシリケート水和物,Na+,K+なども取り込む)を生成するシリカフューム(成分はSiO2:略記SF)とフライアッシュ(成分はSiO2,Al2O3等:略記FA)をOPCに添加した低アルカリ性セメント材料であるHFSCの開発を長年にわたり進めてきました(公開特許広報2000-065992)。低アルカリセメントの現実的な目標としては、室内実験により緩衝材の変質が認められないなどから、地下水との反応後そのpHを11程度以下に抑えることとしています(図2参照)。国際的にも同様の数値が設定されています。

図2 OPCによるpH上昇とHFSCによるpH低下のメカニズム

原子力機構の実験によればOPCにSFやFAを50wt.%以上添加したHFSCを用いることでpHの低下が見込め、さらにセメント‐地下水相互作用モデルに基づく解析により数年程度でpHは11以下になることが示されています(図3参照)。

図3 支保工に用いる低アルカリ性セメントのpHの経時変化測定結果とセメント−地下水相互作用モデルによる解析

このようなpHの低下挙動に加え、土木工事を行う上で重要な施工性、強度発現挙動などに着目して、様々な室内試験や地上での模擬トンネルへの吹付け試験(モックアップ試験)などを実施してきました。その結果、施工性とともに幌延の地下施設の設計基準強度を満たすHFSCの配合としてOPC:SF:FA=40:20:40wt.%を選定しました。この配合のHFSCを用いて現場のコンクリート製造プラントでコンクリートの試験練りを行い、水とセメントの割合などを決定して、今般幌延深地層研究センターの地下施設の深度140mの調査坑道で支保工の本格的な施工に成功しました。

なお、本成果については、日本原子力学会「2009年秋の大会」(H21.9.16〜18)でも発表しています。


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