平成21年10月15日
独立行政法人日本原子力研究開発機構

低アルカリ性セメントを用いた地下施設の本格的な施工に成功
−安全な地層処分実現に向けた新技術の実証−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」という。)地層処分研究開発部門では、高レベル放射性廃棄物地層処分に係る研究開発の一環として、低アルカリ性セメントの開発を行ってきました。今般、世界で初めて低アルカリ性セメントを用いたコンクリートによる地下施設の本格的な施工に成功しました。

今回実証した技術は、施工性を確保しつつ、地層処分の長期的な安全性を高めることを可能とするものです。将来的には、地層処分のみならず、地質環境に優しいセメント材料として、一般廃棄物処分場や人工河川の施工といった土木工事など様々な分野への応用が期待されます。

地下施設の立坑や水平坑道を建設する際には、坑道の空洞安定性を保つためにコンクリート材料が支保工1)として使用されます。この支保工は、特に軟岩系堆積岩の工事では不可欠なものです。通常の土木工事で用いられるコンクリート材料の主成分である普通ポルトランドセメント(Ordinary Portland Cement;以下「OPC」という。)は、地下水と接触すると近傍の水のpHを12.5以上の高アルカリ性にします(通常の地下水のpHは6〜9程度)。この地下水の高アルカリ化により、地層処分システムを構成する緩衝材や周辺岩盤の性質が長期的に変化し、そのバリア機能2)が低下する可能性があります。このような変化を抑制し、地層処分の安全性をより確実なものとするため、原子力機構では低アルカリ化を促進するためにOPCにシリカフューム3)とフライアッシュ4)を混合した低アルカリ性セメント(Highly Fly-ash contained Silica-fume Cement;以下「HFSC」という。目標pHは11以下)の開発を進めてきました(補足説明を参照)。低アルカリ性セメントの開発は、スイス、フィンランド、スウェーデンなど地層処分を計画しているヨーロッパ諸国においても精力的に進められており、坑道の一部で小規模な試験が行われた例もあります。原子力機構では、これらの国とも共同研究などを通じて情報交換を行いながら、本格的な実証試験の準備を進めてきました。

今般、幌延深地層研究センターの地下施設の深度140mにおける調査坑道(施工延長距離約70m、図1参照)において、原子力機構が開発した上記HFSCを用いたコンクリートによる吹付け施工を行い、適用性を確認しました(総吹付け面積:約930m2、総吹付け量:約500m3、写真1,2参照)。この結果、吹付けの施工性については通常の土木工事で用いられているOPCと同等の結果が得られました。また、内空変位5)などの力学的安定性もOPCと同等の性能を示し、HFSCが地下坑道での施工に適用できることが確認されました。このように、低アルカリ性セメントを用いたコンクリートにより実際の地下坑道を本格的に施工し、OPCと同等のその実用性を確認したのは、世界でも初めてのことです。

今後も、HFSCを施工した部分について、周辺の地下水のpHの変化や周辺岩盤への影響について継続して調査する予定です。

図1 HFSCの吹付け施工範囲

写真1:地下でのHFSCの吹付け施工の様子/写真2:HFSC施工後の坑内状況

以上

参考部門・拠点:地層処分研究開発部門

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