用語解説

1)中性子回折
物質を構成する原子核と中性子との相互作用で発生する干渉性の弾性散乱。散乱角度と強度から、物質を構成する原子の配置等に関する情報を得ることが出来ます。パルス中性子回折では幅広いエネルギーの中性子を使うことで、幅広く散乱領域を調べることができます。また原子核による散乱であることから、大きな散乱ベクトルでも、原理的には散乱強度が弱くなりません。特にパルス中性子源では、大きな散乱ベクトルまでの回折実験を可能にする短い波長の中性子が得られるため、今回のように結晶PDF解析法という手法を用いると、格子の周期性にかかわらず原子間の距離を正確に求めることができます。そのことから僅かな格子歪みも見つけることが可能になります。特に今回の発見では、Mn原子核が中性子に対して負の散乱長をもつことから、X線とは異なり、窒化マンガン八面体の回転がよく見えました。
2)核磁気共鳴
物質を構成する原子核の多くは小さな磁石でもあり、物質が磁気を帯びるとそれに応じて固有の回転運動をします。核磁気共鳴とは原子核の回転を電気的な信号として検出する方法です。原子核は非常に小さな粒子なので、物質の磁気をミクロに調べることができます。核磁気共鳴法を使うと、例えば全体としては磁気の強さが同じであっても、均一に(一様に)磁気を帯びている状態と、磁気の強い所ころと弱い所が混ざっている状態を区別することができます。
3)インバー効果
例えば非磁性の物質が強磁性体のような磁石になる時に、その物質は体積を変えます。通常の体積膨張とこのような磁性の状態変化に伴う体積収縮が相殺して、熱膨張が非常に小さくなる効果を一般にインバー効果と呼びます。今回のマンガン化合物Mn3Cu1-xGexNの場合には通常の体積膨張よりも磁性状態の変化に伴う体積収縮が非常に大きいため、大きな負の熱膨張が現れます。
4)米国の装置
本実験は、研究者が米国ロスアラモス国立研究所に赴き、パルス中性子源LANSCEの中性子回折装置NPDFを用いて実験しました。
5)磁気モーメント
例えれば、小さな棒磁石とでもいったものです。具体的には磁石は各々の原子核のまわりの電子が担う磁気モーメントにより、磁石としての性質を示します。つまり磁気モーメントはその電子の状態により生じます。図3に明らかになったマンガン化合物の磁気モーメントの配列を示します。この秩序化した磁気モーメント成分は中性子では磁気散乱強度として、核磁気共鳴ではスペクトル幅として観測されます。

図3.マンガン化合物(Mn3Cu1-xGexN)の大きな負の熱膨張を示す組成で共通して見つかった磁気構造


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