【用語説明】

1.アクチノイド

周期律表の最下段に位置する原子番号89(アクチニウム)から103(ローレンシウム)までの15元素群であり、全て放射性元素である。特に、原子番号がウランよりも大きい元素(超ウラン元素)は天然には存在せず、原子炉や加速器を利用して人工的に作られるもので、半減期が数万年以上の同位体を含むものがある。

核燃料として利用されているウランおよびプルトニウムに加え、これらに次いで使用済燃料中で生成量の多いマイナーアクチノイド(MA:ネプツニウム、アメリシウム、キュリウム)が核燃料サイクルにおいて重要なアクチノイド元素である。

2.核分裂生成物

原子炉内でウランやプルトニウム等の核分裂反応に伴って生じた核種およびその一連の放射性崩壊で生成する核種のこと。大部分が放射性であり、その半減期が1秒以下のものから数百万年に及ぶものまで幅が広い。発熱性元素や希少な白金族元素も含まれている。

3.高レベル放射性廃棄物

使用済核燃料の再処理においてウランおよびプルトニウムを分離回収する工程で発生する、核分裂生成物や超ウラン元素を含む放射能レベルが高い廃棄物。狭義では、ウランとプルトニウム以外の元素を濃縮した高レベル廃液やガラスに溶融したガラス固化体を指す。

4.分離変換技術

高レベル放射性廃棄物に含まれる長半減期核種を、半減期、発熱性、毒性などに応じて分離し、加速器や原子炉を用いた核反応により長寿命(長半減期)核種を短寿命核種に核変換して地層処分に伴う長期環境負荷を軽減することを目的とする技術。核種分離技術および核変換処理技術からなり、日仏を中心に各国で開発が進められている。複数の元素をグループ(群)として分離するケースが多く、群分離と呼ばれることもある(図1)。


図1 使用済燃料の再処理および分離変換の概念例(旧原研)
[出典 RISTニュース No.35 (2003)
http://www.tokai.rist.or.jp/rist/rnews/35/02-18.pdf

4.1.核種分離技術(群分離)

分離変換技術のうち、使用済燃料からアクチノイドや核分裂生成物を化学的に分離するための技術であり、有機溶媒と硝酸を用いる湿式分離法と溶融塩を用いる高温化学法がある。ウランとプルトニウムを個別に回収するために開発されたピューレックス法は湿式分離法の一つであり、我が国の六ヶ所村や仏英の商業再処理施設で広く用いられている。核不拡散のためにプルトニウムを単独で分離しないプロセスが望まれており、米仏ではピューレックス法をベースとして全てのアクチノイドや発熱性・長寿命核分裂生成物を分離するプロセスの開発を進めている。日本原子力研究開発機構では、ウランとプルトニウムの溶解度の差を利用した新しい湿式分離技術(NEXTプロセス)を独自に開発中である(図2)。


図2 先進湿式再処理技術プロセス(NEXTプロセスの概要)
[出典 JAEAプレス発表資料
http://www.jaea.go.jp/jnc/news/press/PE2005/PE05070701/z1.html]

4.2.核変換技術

ウランを燃料とする商業用発電炉は水を冷却材として用いる。これは核分裂で発生した高速中性子をウランが分裂しやすい熱中性子にまで減速させるのに都合がよいからである。一方、プルトニウムやマイナーアクチノイドは高速中性子で効率よく核分裂して短寿命核種に変換される。プルトニウムを燃料とするもんじゅなどの高速増殖炉では減速しにくいナトリウムを冷却材として用いる。マイナーアクチノイドを短寿命核種に核変換する技術は、高速中性子を発生させるために加速器を用いるか、原子炉を用いるかに大別される。

(i)加速器駆動未臨界炉システム(ADS)
 加速器を用いて大強度陽子線を鉛などの液体重金属(核破砕ターゲット)に照射して核分裂させ、大量の高速中性子を発生させ、この中性子によりマイナーアクチノイドを核分裂させる核変換技術。発生する熱を利用して発電も行う概念を図3に示す。
 加速器を停止すれば核反応が停止する体系のため運転上の安全性が高く、高速炉よりも多くのマイナーアクチノイドを装荷できる。また、核燃料にウランを含まないので運転中に新たにマイナーアクチノイドが発生しないない利点を有する。鉛ビスマス(Pb-Bi)を冷却材として用いるADS未臨界炉心の設計例を図4に示す。


図3 ADSによる核変換システム
[出典 RISTニュース No.35 (2003)
 開発課題として、大強度の陽子加速器の開発に加え、陽子ビームに曝されるビーム窓の材料劣化、鉛ビスマスによる材料の腐食、ビームが突然停止した時の衝撃安全性などについて研究が進められている。


図4 ADSの設計例
[出典 RISTニュース No.35 (2003)

(ii)高速炉による核変換
 高速炉に用いられるウラン−プルトニウム燃料に微量のマイナーアクチノイドを混合して燃焼させることを試みるシステムである。原子炉運転時の安定性を確保するためマイナーアクチノイドの添加量はADSよりも低く制限される。マーナーアクチノイド含有燃料の特性や原子炉内での配置などについて炉物理的な検討や実験が進められている。
 高速炉や加速器を用いる核変換システムについての比較を図5に示す。


図5 高速炉サイクルとADSシステム
[出典 資源エネルギー庁資料
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/data/050901_3a.pdf

5.移行シナリオ

現在主流である低濃縮ウランの軽水炉発電から、再処理により回収したウランやプルトニウムを軽水炉で燃焼するプルサーマルが一般化し、将来はプルトニウムやマイナーアクチノイドを効率的に利用する高速増殖炉を中心とする次世代原子力システムへと移行することが予想される。今後数十年の発電量をもとにして、将来必要となる核物質の種類や量を予測し、再処理施設で回収できる核物質量とバランスを取ることが数十年単位の円滑な移行には必要である。このため、高速増殖炉の導入シナリオが検討されている。


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