平成20年5月21日
J-PARCセンター

J-PARC中性子源で世界最大級の極低温水素循環システムが完成
−世界最高性能の大強度中性子ビームの安定な供給に期待−

大強度陽子加速器施設(J-PARC)1)において、大流量・超臨界圧状態の極低温水素(圧力1.5MPa、温度20K(-253℃))を強制循環する世界最大級の極低温水素循環システム2)を国内で初めて製作・設置し、この度、世界最大となる流量(約8m3/h)の極低温水素を安定して循環させることに成功しました。

本システムによって中性子を冷却する(エネルギーを下げる)ことで、J-PARCでの多様な実験に適応したエネルギーの大強度中性子ビームを供給することが可能となります。

●概要

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄 以下「原子力機構」という)と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(機構長 鈴木厚人)の共同運営組織であるJ-PARCセンター(センター長 永宮正治)は、J-PARCの建設及び運営を進めています。

高エネルギー陽子が原子核に衝突すると、原子核がバラバラになり中性子などの二次粒子を多量に発生する核破砕反応3)が起こります。核破砕中性子源4)ではこの核破砕反応により生じる高エネルギーの中性子(温度換算で数百億度)を、モデレータと呼ばれる水筒のような容器中の極低温水素の中に通過させることによって、約20Kまで冷やしてエネルギーを下げることで、多様な中性子実験装置に適した中性子ビームを供給します。特に、J-PARCの中性子源では、大強度なため、従来の冷却システムでは安定な中性子ビームを供給できないという課題がありました。このほど製作したJ-PARCの極低温水素循環システムは、世界初となる水素気体軸受けの極低温水素循環ポンプ5)を採用し、20K、1.5MPaの超臨界状態の水素をモデレータに世界最大の約8m3/hの流量で供給循環します。その結果、大強度の中性子エネルギーを吸収しても、水素の密度がほとんど変化せず、大強度で安定に低エネルギー中性子を実験に供給できることになり、上記課題を克服したものです。この度、この極低温水素循環システムの試運転を行い、安定した動作を確認しました。ここに、世界最高の中性子性能が期待できる中性子冷却システムとして、国内初であり、世界最大級の設備が完成しました6)

今回開発した水素冷凍システムの技術は、今後、水素エネルギー社会が展開して行く際、大量の水素輸送が不可欠となり、この水素を液体水素や超臨界水素等の高密度状態にして運ぶ輸送技術にも応用できることが期待されます。

用語解説

以上

参考部門・拠点:J-PARCセンター

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