用語説明
 
1)陽電子
電子の反粒子である。電子と反対の電荷(プラス)を持つが、質量やスピンの大きさは電子と全く同じである。陽電子と電子が結合すると、高エネルギーガンマ線を放出して消滅する(対消滅現象)。イギリスの物理学者P.A.M.Dirac(ノーベル物理学賞受賞)が相対論的量子力学において理論的に予言した後、1934年にスウェーデンの物理学者C.D.Anderson(ノーベル物理学賞受賞)が宇宙線観測において発見した。


2)陽電子消滅法
物質中に入射した陽電子は、本来あるべき原子が欠損した原子空孔に捕獲される。原子空孔が存在すると陽電子の消滅寿命や消滅ガンマ線のエネルギー分布が変化することから、原子空孔の検出法(陽電子消滅法)として使用される。原子力機構が保有する量子ビーム技術の中では、最も有力な原子空孔の検出法である。


3)陽電子ビーム
陽電子のエネルギーと方向を揃えることで、光線状の陽電子ビームを形成することができる。陽電子ビームのエネルギーを変えることで物質への進入深さを制御することができるため、表面近傍から内部に存在する原子空孔の深さ分布を得ることができる。このように3次元的に物質の状態を観察できることが、他の量子ビームにはない特長である。


4)ドイツの研究グループ
ドイツでは1990年代後半頃から、陽電子マイクロビームの開発が行われてきた。1997年にはボン大学のグループが直径約30μmに成功している。2001年にはミュンヘン国防大学のグループが、大型の線源と二段階の減速材を使用することで、直径2μmのビーム収束に成功している。


5)陽電子線源
陽電子を生成する元となる線源のこと。陽電子を生成するには、加速器や原子炉を利用する方法と、放射性同位元素(ナトリウム-22等)を利用する方法とがある。加速器や原子炉を利用する場合は装置の大型化が避けられないが、放射性同位元素を利用すれば装置の小型化を図ることができる。


6)減速材
陽電子線源から発生する陽電子のエネルギーは幅広い分布をもっているため、そのままでは陽電子ビームとしては使えない。陽電子のエネルギーをそろえる(単色化)ためには、通常タングステン等を用いた減速材が使われる。固体ネオン減速材は最も効率的な方法である反面、線源を絶対零度付近まで冷却する必要があるなどの難点がある。


7)小型線源
陽電子マイクロビームのようにビームを細く収束し、かつ装置を小型化するためには、陽電子線源をできる限り小型化する必要がある。ただし、線源を小型化すると強度が低下することから、効率の高い減速材が必要となる。原子力機構では、直径1mm程度の小型陽電子線源を開発するとともに高効率の固体ネオン減速材を採用した。


8)走査型顕微鏡
走査型電子顕微鏡は、細く収束した電子ビームを二次元的に走査しながら材料に照射した際に発生する二次電子から微細構造物の顕微鏡像を得るしくみになっている。電子ビームの収束には、円筒状のコイルを鉄製のヨークで包んだ収束レンズを使用する。

もどる