補足説明
 
1.背景
 次世代原子炉の開発では、燃料の高燃焼度化や炉材料の放射線劣化への対策が重要視されており、特に次世代高速炉では高温及び高速中性子による影響が大きいと考えられています。これらの課題の新たな評価法として、原子力機構は、陽電子マイクロビーム技術の開発を進めてきました。

2.研究内容
 電子の反粒子である陽電子1)は、物質中の電子と結合するとガンマ線を放出して消滅します。この性質を利用することで、陽電子は、物質を構成する原子が欠損した「原子空孔」を高感度に検出することができます。これは陽電子消滅法2)として、材料の研究に利用されています。しかし、材料局部に発生したミクロなクラック周辺の原子状の欠陥分布や微粒子中の原子空孔の顕微評価を行うためには、従来の陽電子ビーム3)(直径数ミリメートル)をマイクロメートルレベルに収束することが必要でした。
 これまで、ドイツの研究グループ4)が、大型の陽電子線源5)(ナトリウム-22)と複数のタングステン減速材6)を用いて世界で最も細い直径2μm(マイクロメートル)を達成していました。原子力機構は、放射性同位元素(ナトリウム-22)を用いたより小型の線源7)を開発し、効率の高い固体ネオンを減速材として採用しました。加えて、走査型電子顕微鏡8)の光学系を適用することにより、小型(1.5×1m2)で世界最高レベルの陽電子ビーム径(直径1.9μm)を達成することに成功しました(概要説明の左図)。


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