補足説明資料

研究の背景
 超高強度極短パルスレーザー5)を金属や高分子などの物質に照射することにより陽子線が発生することが従来より知られている。このレーザー駆動陽子線は従来の加速器から得られる陽子線に比べ、装置の小型化が可能であり、短いパルス幅をもち、高い直進性を示すという優れた性能を持つため、産業利用、医療応用が広く期待されている。しかしながら、実用化に際しては、単色のエネルギースペクトルを持つ陽子線を繰り返し生成することが必要とされていた。


研究の内容と意義
 今回、京都大学化学研究所(以下、「京大化研」と言う)と日本原子力研究開発機構(以下、「原子力機構」と言う)の共同研究グループは、レーザー駆動陽子線に対して高周波電場を作用させることにより、陽子の速度がほぼ一定の準単色なエネルギースペクトルを持つ陽子線を、繰り返し発生することに成功した。
 実験では、原子力機構の小型のチタンサファイアレーザー(JLITE-X)をピーク出力1テラワット(テラは10の12乗=1兆を表わす)、パルス幅210フェムト秒(フェムトは10の15乗分の1=1千兆分の1を表わす)で、チタンのテープターゲット6)に集光することにより、幅広い速度分布(エネルギースペクトル)、最高エネルギー〜1メガエレクトロンボルト(メガは10の6乗=百万を表わす)、を持つ陽子線を繰り返し1ヘルツ(1秒間に1回)で発生した。この陽子線をその内のあるエネルギーE0をもつ陽子の飛行時間に同期させて、周波数80メガヘルツの高周波電場空胴を通過させた。陽子線中の各陽子は、それぞれの持つエネルギーによって速度が異なるため、高周波電場空胴に到達する時間が異なる。そこで、ちょうどエネルギーE0より低いエネルギーE0−dEをもつ陽子が空胴に到達すると空胴中で加速され、反対にエネルギーE0+dEをもつ陽子は減速されるように(図1参照)、陽子線の発生源(ターゲット)と高周波電場空胴との距離を最適化した。その結果図2に示すような、準単色化されたエネルギースペクトルを持つ陽子線の生成に成功した。


成果の波及
 本陽子線生成システムは、準単色化された陽子線を繰り返し生成することが可能なシステムであり、かつ、準単色化したい陽子線のエネルギーE0を印加する高周波電場のパルスレーザーに対する相対位相を変化させることにより自在に操ることができる点に特徴がある。すなわち、必要なエネルギーE0以外のエネルギーを持つ陽子をただ単にきって捨てるのではなく、エネルギーE0を中心としてE0−dEからE0+dEのエネルギー幅にある陽子を集めることができる。このような効率の高い準単色陽子線の発生の実現は、将来のがん治療へのレーザー駆動陽子線の応用のみならず、産業利用、さらに従来の加速器への前段加速器として適用することにより従来の加速器ビームの持つ直進性をさらに向上させ、さらに大幅に小型化することができると期待される。


今後の課題
 今回準単色な陽子線を繰り返し発生するのに成功したのは、最大で〜1メガエレクトロンボルトとよばれるエネルギーをもつ陽子線であった。将来のがん治療などの医学応用に向けてさらに大きなエネルギーをもつ陽子線の準単色化が切望されている。






 なお、本研究成果の一部は、2007年7月20日に発行される応用物理学会英文論文誌 Japanese Journal of Applied Physics (Vol. 46, Akira NODA et al., “Hi-Quality Laser-Produced Proton Beam Realized by the Application of a Synchronous RF Electric Field”)電子版にExpress Letterとして掲載される予定。

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