図1  ジルコニウムとチタンの高温高圧相図と今回の実験の温度圧力条件
 高温高圧下において、結晶はその原子配列を図のように変化させます。常温常圧下では、六方最密(hcp)構造(α相)が安定であり、加圧により歪んだhcp構造(ω相)へ、加熱により体心立方 (bcc)構造(β相)へと構造変化します。この状態で加熱すると、β相が安定になる温度領域で金属ガラスが形成されることが報告された[Zhang & Zhao, Nature (2004), Wang et al., Phys. Rev. Lett. (2005)]。その真偽を調べるために、本研究では図の赤で示した温度圧力パスに沿って、試料の状態を調べた。



図2  従来の実験法と今回用いた実験法の比較
 従来の方法では、高圧アンビルの隙間を通して試料の散乱強度を検出し、高温高圧下における試料の状態を観察する。しかしながら、アンビルの隙間が大変小さいため(約0.3mm)、試料の情報の一部しか得ることができない。今回の実験法においては、X線に対して透明なアンビル(立方晶BN)と2次元検出器(イメージング・プレート)を用いることにより、アンビル越しに試料のX線散乱強度を得ることができるため、試料の情報を広い角度範囲にわたって得ることができる。このため、高温高圧条件下に置かれた試料の原子配列に関する情報をより詳細に調べることができる。



図3  高圧下で得られたジルコニウムのX線散乱パターンの温度変化
 常温高圧相(ω相)のX線強度(図aのリング)は、加熱に伴って弱くなり、次第に斑点状になる(図b)。これは、加熱に伴って、結晶が微粉末から粒へと徐々に成長することを示している。さらに、50℃昇温すると、試料由来のリングがなくなり(薄く見えているリングは試料容器の散乱)、いくつかの大きなスポットが現れる(図c)。これは、650℃から約700℃の昇温において、結晶粒が急激に成長することを示しており、これまで報告されてきたガラス形成が起こらないことを示している。700℃で見られたスポットは、1000℃まで加熱しても残存しており、さらに温度を上昇しても、ガラス化の兆しは見られない。


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