補足説明

【背景】
 植物にとって紫外線は、避けることのできない環境因子です。紫外線は、作物の減収や園芸植物の葉焼けなど、植物生長へ重大な影響を及ぼしています。紫外線はDNAとの反応性が高く、DNA に損傷が起こるためです。DNAの損傷は、遺伝子の発現やDNA複製を抑制し、その結果細胞の増殖を、引いては植物の成長阻害を引き起こしています。さらに、近年、オゾンホールの拡大によって、紫外線量の増大が危惧されています。
 植物は、紫外線に負けないよう、さまざまな機能を備えています。アントシアニンなどの植物の主要なフラボノイド色素は紫外線をとてもよく吸収し、この働きによって遺伝情報の担い手であるDNAに照射される紫外線の量を減らしています。また、DNAに生じたピリミジン2量体などのDNA損傷は、光修復などの修復機構によって治されますが、これだけでは十分に説明されたとは言えず、植物にはまだまだ未知の紫外線耐性機構が存在するだろうと推測しました。

【研究の内容】
 植物が紫外線に負けないしくみを探索するために、原子力機構高崎量子応用研究所のイオン照射研究施設TIARAを用いてシロイヌナズナにイオンビームを照射し、新規の紫外線耐性突然変異体を獲得しました(図1,2.平成8年4月)。この紫外線耐性突然変異体は、強い紫外線の環境下では、野生型よりも2倍以上生育がよいというものです。今回、このような突然変異に関わっている遺伝子がシロイヌナズナの染色体のどこに位置するのかを調べ、遺伝子を突き止めることに成功し、UVI4遺伝子と命名しました(図3)。この遺伝子の機能を調べたところ、細胞核の中に存在するDNAをあまり増加させないように制御している遺伝子であることがわかりました(図4,5)。突然変異体では、イオンビームによってこの遺伝子の機能が抑制され、細胞核内のDNAが増加(核内倍加)していることがわかりました。核内倍加によって、遺伝子の数が増えたために、強い紫外線環境でも耐えられるようになったのではないかと考えられます。通常のシロイヌナズナ(2倍体)に比べてDNA量が倍になったシロイヌナズナ(4倍体)が紫外線に強いことから、この推測が正しいことがわかりました(図6)。

【成果の意義】
 UVI4遺伝子の発見によって、細胞核内のDNA量を増やす(核内倍加)ことが植物の紫外線耐性を強化するしくみの1つであることがはじめて明らかになりました。紫外線から逃げることのできない植物は、色素等による防御とDNA修復のほかに、核内倍加によって紫外線の下でも強く生き抜いていることがわかります。また、核内倍加という現象は多くの植物種で起きていることから、UVI4遺伝子の働きを制御することで、現在よりもさらに紫外線に強い植物を作ることができ、ムギやダイズなどの作物の増産や園芸植物の葉やけの防止などに役立てることが期待できます。

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