補足説明資料


 カドミウムは重金属のひとつで、人の体内に高濃度に蓄積すると有害であることから、土壌や農作物に含まれるカドミウムが問題となっています。日本では主食であるコメのカドミウム濃度基準が食品衛生法で定められていますが、国際的にも食品中のカドミウム濃度に関する基準作りが進められています。
 コメへのカドミウムの蓄積を防ぐためには、カドミウムを吸収しにくい品種を作ることや、植物がカドミウムを土壌から吸収しにくい栽培条件を見出すことが重要ですが、イネがカドミウムをどのように吸収し、体内で輸送して蓄積されてゆくのかがわかっていませんでした。

 原子力機構では、高崎量子応用研究所のイオンビーム照射研究施設TIARAのイオンビームを利用して、植物の中の物質の動きを生きたまま、リアルタイムで観測する植物ポジトロンイメージングという新しい計測技術(図1)の開発を進めてきました。


 この技術を利用してカドミウムの問題を解決するため、原子力機構と秋田県立大学は、2004年から共同研究を開始しました。植物体内でのカドミウムの動きを植物ポジトロンイメージング技術を用いて観察するために、これに適したカドミウムのポジトロン放出核種が107Cdであることを突き止め、新しい方法で製造することに成功しました(図2)。さらに、イネへの107Cdの与え方やイネに取り込まれた微量の107Cdの動きを定量的に測定する技術を開発し、根から吸収されたカドミウムが茎や葉へ輸送される様子を観測することに世界で初めて成功しました(図3)。この観測から、播種4週間後の若いイネでは、根に多くのカドミウムが留まっているものの、その一部は約1時間以内という非常に早い時間に茎に移動することがわかりました。




 本研究により、生きた植物において、土壌中からカドミウムがどのように取り込まれ、いつ、どの部分に、どの程度蓄積されてゆくのかを明らかにすることができ、カドミウムを蓄積しにくいイネ品種開発のための迅速な選抜法、植物の土壌からのカドミウム吸収を抑制する栽培技術、また、植物により土壌からカドミウムを減少させる技術の開発に役立ちます。

 なお、この研究の一部は、科学研究費補助金(17380194)の助成により行いました。

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