原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

162 新型電磁石で加速器ビーム制御

掲載日:2026年3月31日

J-PARCセンター 加速器ディビジョン 加速器第三セクション
研究員 地村 幹

東北大学大学院理学研究科博士前期課程より、日本原子力研究開発機構特別研究生としてJ―PARCセンターで加速器科学の研究を実施。同院博士後期課程で博士(理学)を取得後、23年に原子力機構に研究員として入構。現在は、ビーム力学と制御システムに基づいた加速器の高度化業務に従事している。

小型化で省エネ、用途拡大へ

生活支える技術

加速器は電子や陽子など特定の粒子の集まり(ビーム)を作り、高速で発射する装置だ。ビームを物体に照射すれば、物性を変化させたり、内部構造を調査したりできる。がん治療や半導体製造などでも使われていて、実は、加速器は生活を支える技術となっている。

日本原子力研究開発機構では、加速器のビーム制御を高度化する、全く新しい電磁石を開発した。加速器の小型化や省電力化をも実現する開発で、加速器の利活用に弾みをつけるため、応用展開を計画中だ。

加速器でのビーム形状の制御は、粒子が磁場を横切ると運動方向が変わる性質を利用する。カギを握る装置がN極とS極を2対備えた電磁石「四極電磁石」で、多くの加速器で導入されている。大強度陽子加速器施設「J―PARC」でも、世界最大級の高密度ビームを光速付近まで加速するので、慎重なビーム形状制御に必要な機器だ。

ビームを標的まで輸送する過程では、粒子間の相互作用やさまざまな要因で粒子が弾き出され、設置機器などに衝突することがある。しかし、従来の四極電磁石は、弾き出された粒子を内側に戻して再びビーム束に取り込むことはできず、課題となっていた。

2台分を1台に

そこで、開発したのが新型の電磁石だ。四極電磁石の2倍の、4対の磁極を備える。新たな鉄芯形状を採用して各磁極を先端で結合、さらに、先端形状は従来の四極電磁石と同一にした。これらの工夫で、従来なら2台必要な2種類の磁場の生成も、新型は1台で高精度で行う。電磁石の台数も削るので、小型化や製造・運用コストを削減できる。

また、新型電磁石では外側に移動した粒子を内側に戻す運用も可能だ。これで、加速器での意図しない場所への粒子衝突を低減し、安全性も向上する。

導入コスト低減

今後は、新型電磁石を医療・産業分野の加速器に導入を進める計画だ。既設の四極電磁石を交換するだけで済むよう設計してあるので、導入コストも低い。

同技術で高度な制御を行えば、目的対象物へ的確にビームを集中照射できる。医療用加速器なら、正常組織への負荷軽減や小型化での治療機会拡大も期待される。産業用加速器であれば、短時間で高品質な製品を創出し、歩留まりの向上にもつながるだろう。

同技術の普及は、加速器の性能を上げ、より安全に、より短時間で省電力化を叶える。医療分野や産業分野の発展に寄与できる技術だと確信している。