157 回転による核スピン量子多重化
掲載日:2026年2月17日
演算性能向上 理論で貢献
観測に潜む矛盾
日本原子力研究開発機構は、原子核の持つ最小磁石「スピン」を磁場中で回転させると、スピンが多重化することを発見した。量子情報科学の振興には量子状態の多重化による演算能力向上が求められており、今後、応用に向けた実証を進める。
磁性体を吊した状態で磁場を与えると磁性体が回転し、中に回転運動に相当する角運動量があると分かる。逆に、磁性体を回転すると磁場が生じる「バーネット効果」が見られる。これらは回転運動と磁性をつなぐ効果として重要で、スピンが角運動量を持つ証左だ。
一方、核磁気共鳴の世界では分解能を上げるため、1954年ごろから試料を高速で回転する手法を用いたが、回転で磁場が生じるとは考えなかった。バーネット効果によれば、回転で核スピン系にある程度大きな磁場が起きるはず。だが、非常に高い分解能を持つ回転核磁気共鳴法でも磁場が生じたようには見えない。この事実に矛盾を感じ、解明に取り組むことにした。
慣性がヒントに
バーネット磁場は回転で生じる、ある種の慣性場だ。加速する電車の乗客が進行方向と逆向きに感じる慣性力は、加速する電車と同じ座標系で観測しなければならない。この視点が突破口となった。
試料と同じ角速度で回転する座標系から核磁気共鳴の信号を観測すれば、バーネット効果は見えるはずだ。高速回転可能なローターに共振回路を組み、遠心力で破壊されないよう樹脂に埋め込んだ独自装置を作成。磁場中で高速回転させると、バーネット磁場に対応した周波数のシフトが観測できた。
ところが、磁場の角度依存性測定で奇妙な振る舞いが見られた。
回転に着目
シフトではなく信号強度が角度依存し、磁場と回転軸が垂直の場合、回転数の幅で分裂した3本の共鳴線が出た。試料はフッ素核なのでスピンは1/2、共鳴線は1本のはずで、3本は予想外だ。試料と同じ回転座標系で測定したので外部磁場は試料と逆回転。つまり、外場は周期的に時間依存したことになる。
そこで、周期的に時間依存する物理系を扱うフロケ理論で解析すると、本来のスピン1/2と、回転の周期性に由来するスピン1/2が導出できた。3本のスペクトルの起源は2個のスピン1/2が作る四つの量子状態だと判明。さらにこの2個のスピン1/2は2量子ビットとして作用し、量子演算が可能なことも理論的に示された。
今後は、実験的に量子操作を実証し、演算の可能性を探っていく。

