原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

154 高温ガス炉の熱負荷変動試験

掲載日:2026年1月27日

大洗原子力工学研究所 高温工学試験研究炉部 HTTR技術課
 長谷川 俊成

専門は流体力学。学生時代は飛翔中の矢の空気抵抗を調べ、乱流遷移の機構解明に取り組んだ。高温ガス炉の存在を知り、2020年に原子力機構に入構。HTTRの運転、主冷却設備の保守に従事。安全性実証試験当時も運転員として参加。その他、冷却材中の不純物の研究や商用高温ガス炉向けの燃料製造の研究にも従事した。

水素製造視野に知見蓄積

多様な熱利用

次世代革新炉の一つ「高温ガス炉」は、ヘリウムガスで炉心を冷却することで1000度C近い熱を得ることができ、多様な熱利用を期待される原子炉だ。その熱を水素製造に利用すれば、エネルギー自給率の向上と脱炭素社会への貢献が可能となる。日本原子力研究開発機構では国内唯一の高温ガス炉「HTTR(高温工学試験研究炉)」を用いて、水素製造を実現すべく技術開発に取り組んでいる。

2024年、HTTRで安全性実証試験を行った。原子炉出力100%の状態から、意図的に冷却材流量を喪失し、全制御棒を炉心に挿入できない状態に陥らせた。すると、原子炉出力は自発的に0%付近まで低下。炉心溶融が起きない高温ガス炉固有の安全性を世界に示した。

影響を検証

次のステップが高温ガス炉による水素製造技術の実証だ。原子炉で発生した熱は1次ヘリウムで取り出した後、2次ヘリウムに移し替えて水素製造施設に輸送する。しかし、水素製造施設側に異常が起きれば、2次ヘリウムの急な温度変化が逆輸送され、原子炉への影響が懸念される。つまり、水素製造技術の実現には、製造施設で発生した異常から原子炉を守る安全確保策が不可欠だ。

そこで原子力機構では、2次ヘリウムの急な温度変化を模擬し、原子炉への影響を確認する「熱負荷変動試験」を行うことにした。HTTRでは、原子炉で発生した熱は1次ヘリウム系から加圧水系に伝え、最終的には大気中へ放熱する仕組みだ。試験では、建設予定の水素製造施設に代わり、既設加圧水系で放熱量を意図的に減少させて温度変化を作った。

成果を発信

試験開始後、原子炉入口温度は一時的に約11度C上昇したが、制御棒挿入などの原子炉停止操作を行なわなくとも原子炉出力が自発的に低下。6時間後には原子炉出力が90%から88%に静定し、原子炉の安全を確認した。さらに、原子炉出口温度の変化は1度C以内と小さく、出口側での温度変化影響は緩和されていた。これで、水素製造施設で急な温度変化があっても、原子炉の安全は維持されると確認できた。

原子力機構では2030年までに、HTTRと水素製造施設を接続し、水素を製造する計画だ。両者の接続は世界に例がなく、得た知見は製造技術の実証や商用炉設計に欠かせない。今後も成果を発信し続け、HTTRとともに高温ガス炉の社会実装に貢献したい。